築40年の木造アパートを売却したら、突然「税務署」から“お尋ね”が届いたワケ【税理士が解説】
個人所得税の現状と中間層への影響
石破首相も「iDeCo(個人型確定拠出年金)や新NISA(少額投資非課税制度)の税を強化することは毛頭考えていない」と述べています。つまり、金融所得課税の強化は、高額所得者の税負担の歪みの是正であるといえるでしょう。
政府税制調査会が公表したデータをみると、現状の歪みがよくわかります。令和2年のデータによると、所得金額に対する所得税と社会保険料の負担率は以下のような特徴を持っています。
〈所得階級別の負担率〉
〇最高負担率:所得5,000万円~1億円の層で28.7%と最も高くなっています。
〇高額所得者の負担率低下:
・所得5億~10億円:21.5%
・所得50億円~100億円:17.2%
〇中所得者との比較:所得300万円~400万円の層の負担率17.9%よりも、一部の高額所得者の負担率が低くなっています。
では、もし金融所得課税の強化がされた場合、普通のサラリーマン等の中間層にとってどのような影響があるでしょうか? 結論からいうと、新NISAを活用していれば、中間層は大きな影響を受けるとは考えられません。新NISAは、非課税で投資できる金額が大幅に増え、多くの人が利用し始めています。この制度が続く限り、金融所得に対する税金が強化されても、中間層は非課税の枠内で投資を行うことで、税負担の増加を避けることができるでしょう。
したがって、金融課税強化の真の目的は、高額所得者に対する課税強化にあるといえるのです。
不動産投資家への影響
では、不動産投資家にはどのような影響がおよぶでしょうか? 金融投資と不動産投資は、一見直接的な関係がないように思えるかもしれません。しかし、金融所得課税が強化されると、不動産投資にも大きな影響がおよぶ可能性があります。
これまで、株式投資は、流動性が高く、税率も比較的低いため、多くの投資家から人気を集めていました。しかし、金融所得に対する税金が強化されると、株式投資による収益が減ってしまうため、魅力が薄れてしまう可能性があります。
一方、不動産投資は、キャッシュフローが安定していることや、物価上昇による資産価値の上昇が期待できることから、長期的な資産形成手段の一つとして注目されてきました。金融所得に対する税金が強化され、株式投資の魅力が低下した場合、相対的に不動産投資への関心が高まるかもしれません。金融所得課税の強化に伴う、株式投資の期待利益率の低下は、株式市場にある程度の影響をおよぼす可能性があると筆者は考えます。
このように「1億円の壁」は、不動産マーケットともつながっているのです。
ただし、金融所得課税が強化されたとしても、すぐに実物不動産マーケットに資金が流れるとは限りません。不動産投資には、株式投資に比べて初期投資額が大きく、また、物件の選定や管理など、専門的な知識や手間がかかるといったハードルがあるためです。


