(写真はイメージです/PIXTA)

トランプ大統領の再選以来、ユーロ安がつづきました。ユーロは1999年に導入され、ギリシャ危機を乗り越えるなどをしながら第2の国際通貨を維持しています。しかし、トランプ2.0が始動することで再びユーロの持続可能性に疑問が投げかけられています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏が、トランプ氏が大統領に就任することで、EU圏に与える影響や求められる対応について、詳しく解説します。

トランプ大統領再選後にユーロ安

ユーロの対ドル相場はトランプ大統領の再選以来、ユーロ安基調が続いてきた[図表1]。

 

(資料)Datastream
[図表1]24年11月のトランプ大統領再選後、ほぼ一方調子でドル高ユーロ安が進んできた (資料)Datastream

 

欧米間の景気と利下げ見通しの格差に加えて、トランプ2.0の政策転換、特に関税政策や安全保障政策で予想される変化*が停滞するユーロ圏経済の下押し圧力となり、財政政策の制約を強め、欧州中央銀行(ECB)は利下げの加速による対応を迫られるとの観測が広がったからだろう。

*President Trump Gives Virtual Remarks to World Economic Forum

 

ユーロ安には、トランプ2.0の始動一週間前の1月13日に一旦歯止めが掛かったが([図表1]丸部分参照)、持続的で力強いユーロ安の修正につながるものにはならないだろう。

 

ユーロの反転をもたらした要因は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ先送り観測の後退と、中国、メキシコ、カナダヘの関税引き上げの初日実施の2つだが、いずれも効果は一過性と見られる。

 

米国の利下げ先送り観測は、12月雇用統計を受けて高まった後、コアCPIの鈍化で後退したが、前年同月比3.2%でFRBが目指すコア個人消費支出(PCE)で2%と整合的な水準を上回る。トランプ大統領は、23日の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)のリモート演説2で、原油価格が下がればロシア・ウクライナ戦争の停戦につながると見方から、OPECには「原油価格の引き下げ」を、原油価格が下がれば「すぐに利下げをする」よう求め、「世界中で金利が引き下げられるべき」との考えを述べた。

*トランプ2.0で予想される政策と欧州の対応や影響については、「トランプ2.0とEU−促されるのはEUの分裂か結束か?−」基礎研レポート2025-1-17をご参照下さい。

 

トランプ2.0の政策効果についての質問に、トランプ大統領は、「インフレは抑制され多くの雇用が生まれ、多くの企業が移転してくる」と述べたが、インフレの再加速をもたらし、利下げを阻む可能性も排除できないだろう。

 

初日は見送られた関税引き上げも政策手段としての活用への意欲は変わらない。トランプ大統領は、大統領就任式の演説で「米国の労働者と家族を守るため、貿易システムの見直しを直ちに開始する」、「自国民を富ませるために外国に関税や税金を課す」*と述べている。

*日本語訳は日本経済新聞(「不可能な事をなし遂げる」トランプ米大統領演説全文、2025年1月21日)による。

 

以後、メキシコ、カナダ向けの25%の関税、中国向けの10%の追加関税を2月1日にも発動する可能性を示唆している。EUについても、ダボス会議での演説も含めて、米国産自動車や農産物を購入しないことへの不満と、石油や天然ガスの購入を増やさなければ、追加関税を課すという就任前からの主張を繰り返し述べている。

 

EUは、トランプ2.0による関税引き上げを輸入増加のディールで回避することを優先する構えだが、米国が関税引き上げに動いた場合には、対抗措置を講じる準備も整えている*とされる。

*Keith M. Rockwell “Europe plans two-pronged approach to dealing with Trump” Hinrich Foundation Report, January 2025

 

ユーロにとっては、EUによる輸入増加のディールがまとまるにせよ、関税引き上げ合戦にエスカレートするにせよ、ユーロ安圧力として働くように思われる。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2025年1月24日に公開したレポートを転載したものです。

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