(写真はイメージです/PIXTA)

トランプ大統領の再選以来、ユーロ安がつづきました。ユーロは1999年に導入され、ギリシャ危機を乗り越えるなどをしながら第2の国際通貨を維持しています。しかし、トランプ2.0が始動することで再びユーロの持続可能性に疑問が投げかけられています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏が、トランプ氏が大統領に就任することで、EU圏に与える影響や求められる対応について、詳しく解説します。

本格的にスタートした新財政ルールの適用

各国の健全な財政運営を担保するためのルールの適用は、コロナ禍への対応で一時停止され、2024年度から再開された。再開に合わせて、コロナ禍前から議論されていたルールも改正され、24年4月30日に新たなルールが発効した。新たなルールに沿って、1月21日には、現在、過剰な財政赤字是正手続き(EDP)の対象国となっているフランス、イタリアなど8ヵ国(うちユーロ圏は5ヵ国)に各国毎の過剰な財政赤字解消の期限と過剰な財政赤字是正のための「純支出」の増加率の経路が提示された[図表5]。

 

(注)European Commission “European Economic Forecast, Autumn 2024”    Council Recommendation with a view to bringing an end to the situation of an excessive deficit
[図表5]過剰な財政赤字是正手続きの対象国の赤字解消期限と純支出の増加率 (注)European Commission “European Economic Forecast, Autumn 2024”
   Council Recommendation with a view to bringing an end to the situation of an excessive deficit

 

「純支出」は、新ルールで財政の健全化の取り組みを判断するベンチマークとなった。利子支出、裁量的な歳入措置、EUの基金からの歳入と完全に一致するEUのプログラムに関する支出、EUが資金を提供するプログラムの協調融資に関する支出、失業給付支出の循環的要素と一時的措置を差し引いた政府支出を指す。

 

改定前のルールは、債務危機の反省から債務残高を重視したために、過剰債務国に厳しく、グリーン化やデジタル化など構造転換と成長の両立のために必要な投資を阻害する傾向が観察された。他方で、財政健全化にも明確な効果は見られなかった。効果が限定された理由としてルールの複雑さも問題とされた。新ルールでは「純支出」をベンチマークとすることで簡素化しつつ、各国の事情やグリーン化、デジタル化などの改革や投資の要因を考慮することになった。

 

新ルールの下では、EDP非対象国にも「純支出」の参照軌道が示されることになっている。ECBがTPIを発動する際の判断基準として、今後、ベンチマークとの乖離が用いられる可能性がある。

 

過剰な財政赤字是正手続きの対象国は、4月30日までに純支出の軌道を組み込んだ中期財政構造計画を提出し、その後、少なくとも6カ月に1度、過剰な財政赤字が解消するまで計画の進捗を報告し、欧州委員会が計画の実行状況を評価することになる。

 

新たなルールに基づく過剰な財政赤字是正手続きの試金石として注目されるのはフランスだ。ユーロ圏で第2位、一般政府債務残高は最大で、市場への影響力の大きいフランスで「純支出」のベンチマークから外れるリスクが高いことは気掛かりである*。

*UK can rejoin EU ‘in a century or 2,’ Juncker says POLITICO Brussels Playbook July 4, 2024

 

2025年度予算案は、内閣不信任で倒れたバルニエ内閣からバイルー新内閣に引き継がれた。23日には元老院(上院)で可決され、1月30日に国民議会(下院)と元老院(上院)からそれぞれ7人の議員が参加する両院協議会(CMP)での一本化作業が予定されている。一方化で合意した場合、予算案は、2月3日の週に国民議会に戻され、投票に付される*。

*Par Simon Barbarit “Budget 2025 : après le vote du Sénat, quelle est la suite ?” 23/01/2025, Public Senat

 

上院で可決した予算案は、過剰な赤字の2029年度までの解消という目標に適合し、2025年の財政赤字のGDP比5.3%への削減のための歳出削減計画が積み増されているが、国民議会での可決には、社会党が求める歳出削減計画の一部撤回も必要になると見られ、合意が成立するのか見通せない状況にある。但し、政党間の対立は、主にアプローチの違いによるもので、財政赤字の削減の必要性についての一致は見られることは一定の安心材料と言えよう。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2025年1月24日に公開したレポートを転載したものです。

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