画像:PIXTA

商売の自由は、私たちが日々当たり前のように享受している経済活動の基盤です。しかし、取引の自由度をどこまで認めるべきか、社会がどの程度介入し、どのような制限を課すべきかという問いは、経済活動の根幹に関わる重要なテーマです。19世紀で最も影響力のあったイギリスの政治哲学者、経済思想家であるジョン・スチュアート・ミルは、「自由交易」という考え方を通じて、商売の自由と社会的規制のバランスを深く掘り下げました。本記事では、書籍『すらすら読める新訳 自由論』(著:ジョン・スチュアート・ミル 、その他:成田悠輔 、翻訳:芝瑞紀 、出版社:サンマーク出版)より、ミルが提唱した自由交易の理念を手がかりに、商売の自由がどのように社会の利益と調和するのかを考えます。

「自由交易」の考え方

商売は社会的な行動である。なんらかの商品を売ろうとすれば、他者の利益、そして社会全体の利益に影響を与えることになる。

 

つまり、商売における行動は、原則的に社会が管理するものだと言える。そのため以前は、重要だと見なされるすべての商品について、政府が価格や製造法を定めるべきだと考えられていた。しかし、長きにわたる論争を経て、その風潮は変わった。

 

いまでは、生産者と売り手に完全な自由を与えてこそ、安価で質のいい商品が市場に出回ると認められている。唯一の条件は、買い手にも「買う場所を選ぶ自由」を与えることだ。この自由がなければ、売り手の暴走を防げないからだ。

 

以上は、いわゆる「自由交易」の考え方である。本書で扱ってきた「個人の自由」とは異なる根拠にもとづいているが、根拠がしっかりしている点は同じだ。

商売の制限と自由の対立

商売に制限を設けることも、商売のための生産に制限を設けることも、つまるところ「束縛」にほかならない。そしてあらゆる束縛は、束縛というだけで「悪」である。しかし、商売における制限は、社会が管理する行動だけを対象にするものだ。そうした制限を「間違い」だと言えるのは、求めた結果を出せなかった場合に限られる。

 

個人の自由の原理は、自由交易の考え方には含まれていない。そのため「自由交易の限界」についての問題ともほとんど関係がない。

 

たとえば、「粗悪品が詐欺まがいの方法で販売されるのを防ぐために、社会はどこまで人々を統制できるか」とか「危険な仕事に従事する労働者のために、衛生管理や安全管理をどこまで雇い主に強制できるか」といった問題に、本書で論じた原理がかかわってくることはめったにない。せいぜい、「人々を統制するか自由にさせるかのどちらかを選ぶとしたら、後者のほうが社会の利益になる」と言えるぐらいだ。とはいえ、先ほど挙げたような問題の場合、原則としてなんらかの統制が必要になることは確かだ。

 

一方で、商売への干渉にかかわる問題のなかには、自由の問題と重なるものもある。禁酒法の話もそれにあたるし、中国による阿片輸入の禁止や、毒物の販売に対する制限なども含まれる。いずれも「ある商品の入手を困難あるいは不可能にする」ことを目的にした干渉だ。こうした干渉に対しては、「生産者や売り手の自由への侵害」ではなく「買い手の自由への侵害」を根拠に反対することができる。

 

注目のセミナー情報

【資産運用】4月12日(土)開催
毎年8%以上の値上がり実績と実物資産の安心感
「アーガイル産ピンクダイヤモンド投資」の魅力

 

​​【資産運用】4月16日(水)開催
富裕層のための資産戦略・完全版!
「相続」「介護」対策まで徹底網羅
生涯キャッシュフローを最大化する方法

次ページ犯罪や事故を防ぐ「自由の侵害」とは?
すらすら読める新訳 自由論

すらすら読める新訳 自由論

著者:ジョン・スチュアート・ミル まえがき:成田悠輔 訳者:芝 瑞紀

サンマーク出版

「自由は狂気と表裏一体だ」成田悠輔氏が「まえがき」を執筆。 165年を経た現代SNS社会にも通用する必読の名著! 「この本は『社会は個人に対し、どのような権力を、どの程度まで行使できるか?』について書いたものだ」と…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録