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商売の自由は、私たちが日々当たり前のように享受している経済活動の基盤です。しかし、取引の自由度をどこまで認めるべきか、社会がどの程度介入し、どのような制限を課すべきかという問いは、経済活動の根幹に関わる重要なテーマです。19世紀で最も影響力のあったイギリスの政治哲学者、経済思想家であるジョン・スチュアート・ミルは、「自由交易」という考え方を通じて、商売の自由と社会的規制のバランスを深く掘り下げました。本記事では、書籍『すらすら読める新訳 自由論』(著:ジョン・スチュアート・ミル 、その他:成田悠輔 、翻訳:芝瑞紀 、出版社:サンマーク出版)より、ミルが提唱した自由交易の理念を手がかりに、商売の自由がどのように社会の利益と調和するのかを考えます。

犯罪や事故を防ぐ「自由の侵害」とは?

いま挙げた例のなかで、「毒物の販売」だけは別の問題につながってくる。「警察の機能」と呼ばれるものの限界はどこか、犯罪や事故を防ぐための「自由の侵害」はどこまで認められるのか、といった問題だ。

 

実際に発生した犯罪を摘発して罰を与えるだけでなく、犯罪を未然に防ぐことも政府の義務である。このことに異論がある人はいないだろう。だが、犯罪の予防においては、政府の権限が拡大解釈されやすい。犯罪を処罰するときに比べて、人々の自由が侵害される可能性がはるかに高いのだ。なぜなら、人々の「正当」な行動のなかに、「どのような犯罪にもつながらない」と言えるものはほとんどないからだ。

 

とはいえ、誰かが犯罪に手を染めようとしているのを目にしたなら、その人が犯行に及ぶまで待つ必要はない。警察はもちろん民間人でも、犯罪を防ぐためにその人の行動に干渉することが認められる。

 

もし毒物が、殺人以外に使い道がないものだとしたら、その生産と販売を禁止するのは100%正しいと言える。だが現実的には、合法的かつ有益な目的のために毒物が使われることもある。犯罪の防止のために毒物の販売を制限すれば、有益な行為までさまたげるかもしれないのだ。

 

繰り返すが、事故を防ぐことは政府の正当な義務のひとつだ。いまにも落ちかねない橋を渡ろうとしている人がいて、その人に警告する余裕がないときは、強引につかまえて引き戻してもいい。引き戻した人が警察官であれ一般市民であれ、その行為は「自由の侵害」にはあたらない。自由とはつまり、「望んだことをする自由」であり、橋を渡る人は「川に落ちる」ことを望んでいるわけではないからだ。

 

だが、その人が被害に遭うと確定したわけではなく、「被害に遭う可能性がある」だけだとしたらどうだろう? その場合、リスクを負うべきかどうかを決められるのは本人だけだ。その人がまだ子どもだとか、正常な判断ができない状態にあるとかいう場合を除いて、危険について警告する以上のことはしないほうがいい。

 

この考え方は、毒物の販売の問題にも適用できる。そうすることで、考えうる数々の規制のうち、どれが認められてどれが認められないかを判断できるようになる。

 

たとえば、「製品のラベルに危険性を明記する」ことを義務づけても自由の侵害にはならない。「買った商品が『有毒』だという事実を知りたくない」という買い手はまずいないからだ。しかし、「医師の証明書がなければ買えない」という規制ができたらどうだろう? 正当な使い道のために毒物を求める人からすると、余計な費用がかかううえ、購入事態をあきらめざるをえなくなる可能性もある。

 

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すらすら読める新訳 自由論

すらすら読める新訳 自由論

著者:ジョン・スチュアート・ミル まえがき:成田悠輔 訳者:芝 瑞紀

サンマーク出版

「自由は狂気と表裏一体だ」成田悠輔氏が「まえがき」を執筆。 165年を経た現代SNS社会にも通用する必読の名著! 「この本は『社会は個人に対し、どのような権力を、どの程度まで行使できるか?』について書いたものだ」と…

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