「Extend and Pretend」の渦中にある米国経済
中央銀行による支援や金融市場のバリュエーション、経済格差の拡大、内政や国際政治のひずみ(言論統制や不法移民、多様性やグローバル化の押し付け)など、さまざまな問題によって、ゴムが限界にまで伸びきっているように見えます。
ただ、「今度こそ終わりか」と思いきや、終わりが何度も先延ばしにされるのが、ここ数年の特徴のように思えます。
最近の金融市場におけるキーワードのひとつは「Extend and Pretend」です。 Extendは「先に伸ばす」、「先送りにする」という意味です。他方の Pretendは「~であるふりをする」あるいは「~ではないふりをする」という意味ですから、「偽る」ということです。
この言葉は、米国の銀行が(新型コロナ・パンデミック以降に稼働率が落ちて苦境に陥ったオフィス物件などの)商業用不動産向けの融資条件を緩和することで「問題を先送りにし、しかも、なにも問題がないふりをする」状況を指すものです。
筆者には、我々がいま、この『先送り・偽り経済』にいるように思えます。その状況を確認し、今後を考えてみましょう。
1.44%が“担保割れ”…米銀行が先送りにしている「不良資産」
米国の銀行は不良資産の問題を「先送り」にし、「なにも問題はないふり」をしています。最初に上記の商業用不動産向け融資の問題を考えます。
4人の経済学者が共同執筆したある論文では(Jiang et al(2024))、次の2点がその主たる分析結果として主張されています。
・【担保割れ】……昨年末時点で、商業用不動産向け融資の14%、その一部であるオフィス不動産向け融資の44%が担保割れである(⇒不動産の直近評価値<借入残高)。
・【借り換えも困難】……①銀行の標準的な融資基準と、②現在の停滞するキャッシュフロー(=平均賃料×稼働率)、③(国債利回りの上昇と信用スプレッドの拡大による)高い借り換え金利という3つの組み合わせを想定すると、商業用不動産の43%、オフィス不動産の64%が、借り換えができない「計算」になる。
もちろん、本来なら借り換えが認められない状況でも、借り換えを認めるか認めないかは銀行しだいです。ただ、担保割れや(普通なら)借り換えが困難な状況は、銀行はすでにそれなりの損失を認識しないといけない状況であることを示唆します。
他方、[図表1]で銀行の商業用不動産向け貸出債権の償却率【オレンジ;損失をどの程度認識しているか】を確認すると、市場価格があるリートのイールド・スプレッド【青】は、2008年の世界金融危機時も2020年のパンデミック時も一足先に調整を済ませているのに対して、償却率で測った銀行の損失認識は緩慢であることがわかります。
リートは日々値洗いが起きますが、銀行による償却(損失の認識)は銀行の判断しだいであるためです。
監督当局の一部であるニューヨーク連銀のスタッフたちも同じテーマ(Extend and Pretend)について論文を書いています。
その結論として、(満期の延長や金利の減免など)融資条件の緩和によって損失認識という問題は「先送り」にできるものの、(収益性の低い債権を温存し、成長性の高い事業への貸し付けが阻害されることで)資本の効率的配分という別の問題が生じると指摘しています。