日本の景気、同じ条件で語っても…「最悪のシナリオが…」「金融政策を見る限り…」「よくなるでしょう」プロたちのポジショントーク、明確な差が出るワケ【経済評論家が解説】

日本の景気、同じ条件で語っても…「最悪のシナリオが…」「金融政策を見る限り…」「よくなるでしょう」プロたちのポジショントーク、明確な差が出るワケ【経済評論家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

投資家でなくても気になってしまう「景気動向」。経済番組で自説を展開する「その道の人」はたくさんいますが、素直に耳を傾けているだけでは、聞くだけでは、混乱してしまうかもしれません。そんなとき「景気の話をする人」をザックリ4つのグループに区切って見ると、理解しやすくなるはずです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

景気予想「常に大恐慌を予言するトンデモ屋」は、意外と人気

世の中に景気の話をする人は大勢いますが、筆者はその人たちを4つのグループに分けています。「経済学理論から景気を論じる経済学者」「景気を予想する人」「株価を予想するために景気の話をする人」「常に大恐慌を予言しつづけるトンデモ屋」です。

 

経済学者は、経済学理論には詳しいのですが、経済は複雑すぎて経済学理論ではうまく説明できません。「景気は気から」といわれるように、心理学と経済学の共同研究が進展するまで難しいでしょう。経済学者は景気予想屋を「勘ピューター」と呼んでいるようですが、筆者は景気予想屋なので、経済学者を「理路整然と間違える人々」と呼んでいます。

 

景気予想屋と株価予想屋の違いについては後述するとして、トンデモ屋は、合理的なビジネスモデルです。筆者も、もう少し自尊心が小さかったら挑戦していたかもしれません(笑)。

 

トンデモ話を聞きたい人は一定数いますし、心配性の人は「最悪のシナリオについても把握しておきたい」と考えるかもしれません。そこで、固定客を容易に獲得できます。

 

「すべての幸せな家庭は似ている。不幸な家庭は、それぞれ異なる理由で不幸である」
…とは、かの有名な小説『アンナ・カレーニナ』の書き出しですが、同様に、悪いことが起こらないシナリオはひとつだけですが、悪いことが起きそうなシナリオは容易に数多く描けます(笑)。つまり、面白そうな話が多数語れるのです。

 

そしてなにより、予想が外れても怒られません。リーマン・ショックのようなことが起きた場合だけ「私が何年も前から予想していた通り…」といえばいいのですから(笑)。

全体像を見る「景気の予想屋」、情報を絞り込む「株価予想屋」

景気の予想屋は、幅広い経済指標等について浅く広く論じます。景気は大きな流れですから、強い材料と弱い材料の綱引きとして捉え、全体像を探るわけです。

 

株価の予想屋は、株式投資をしている人が主な顧客ですから、株価の予想をするために必要な情報に絞って詳しく話します。具体的には、日米の金融政策、米国の雇用統計です。

 

たとえば米国の鉱工業生産の統計は、景気の予想屋にとっては重要な統計のひとつですが、株価の予想屋は生産について滅多に触れません。それは、生産統計が発表された日に株価が動かないからです。

 

発表された日に株価が動かないということを多くの投資家が知っているので、一層多くの投資家が生産統計に興味を示さなくなり、一層多くの株価予想屋が生産の話をしなくなるのです。

 

一方で、金融政策は株価に大きく影響しますので、投資家たちは金融政策に強い関心を持っており、株価予想屋も金融政策について熱心に語るわけです。

 

景気の予想屋にとっては、金融政策は重要ではありません。「金利が0.25%引き下げられたから、設備投資をしよう」などという企業は多くないからです。せいぜい、金融緩和で株高、ドル高になると景気に影響があるかもしれない、といった程度の関心でしょう。

 

景気の予想屋は、「経済指標は振れるから、一喜一憂するな」と育てられます。数多くの統計を数カ月分、じっくり眺めて景気の大きな方向性を判断するのです。

 

しかし、株価の予想屋は、そんなことをしていたら株価が動いてしまいますから、他人よりはやく一喜一憂する必要があります。そこで筆者は株価予想屋を「雨が降れば洪水を心配し、雨が止めば水不足を心配する人々」と呼んでいますが、彼らはもしかすると景気予想屋を「堤防が決壊してから洪水を心配する人々」と呼んでいるかもしれませんね。

景気予想屋の話は結構あたるが…株価予想屋が当たりにくいワケ

景気予想屋と株価予想屋は、一般の人からは違いがよくわからないかもしれませんが、上記からわかるように金融政策の話が短い人は景気予想屋、長い人は株価予想屋です。

 

どちらの話を聞くべきかは、目的によって使い分ける必要があります。優劣ではなく、違う職業だからです。

 

筆者は、仕事上は景気予想屋ですから、仕事中は株価予想屋の悪口をいったり書いたりしていますが、趣味で株式投資をやっていますので、余暇には彼らの話を真剣に聞いたりしています。

 

ちなみに、景気予想屋の話は結構あたります。それは、景気が上を向いているときには「このままよくなって行くでしょう」といえば高い確率で当たるからです。

 

一方で、株価予想屋の話はそれほど当たりません。なぜって、いまの株価は世界中のプロの半分が上がると思って買い注文を出し、残り半分が下がると思って売り注文を出した結果として成立しているわけですから。

 

別に景気予想屋が偉いわけでも株価予想屋が悪いわけではありません。株価の短期予想のほうがはるかに難しい、というだけのことです。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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