問題なのは「世代間不公平」ではなく「世代内不公平」
財政赤字(政府の借金)は次世代に借金を払わせるので世代間不公平だ、という人がいます。しかし、次世代は遺産も受け取るので、次世代全体としては恩恵の方が多いわけで、我々世代が次世代に負い目を感じる必要はありません。
問題は、遺産が相続できる子とできない子の「世代内不公平」なのです。そうであれば、世代内不公平を小さくすべく相続税を増税すればよいでしょう。それによって財政赤字が減れば、一石二鳥です。
現在の相続税の税額は小さいので、「税額が2倍になっても税収全体として見れば誤差の範囲内だ」という反論を受けることがありますが、筆者のイメージしている増税は、それよりはるかに大幅なものです。
増税の目処としては、「所得税並み」でいかがでしょうか。額に汗して給料を稼いだ人より相続人の払う税が少ないのは勤労者の理解が得にくいでしょう。たとえば1億円を相続したら、10年間にわたって所得が1,000万円あったとみなして「相続所得税」を課すのです。所得の高い人に不利にならないように、相続所得税の所得は一般の所得とは合算しない方がよいでしょうね。なお、後述のように、被相続人に子も親もいない場合、相続人である兄弟姉妹にはさらに高い税率でいいでしょう。
相続税増税なら、景気への影響が小さくてすむ
筆者は、世代間不公平を気にしないといっても、財政赤字をまったく気にしていないわけではありません。増税が景気を悪化させて失業を増やすことは心配ですが、そうした心配が少ないならば、増税して財政赤字を減らす方がよい、と考えています。
その点、相続税の増税は、公平の観点から望ましいのみならず、痛税感が小さい、景気への影響が小さい、というメリットもあります。遺産は、いつ何円受け取れるか事前にはわからないので、税金分だけ減ったとしても「最初からそれだけしか相続しなかったと考えれば仕方ない」と考えることが可能です。給料やボーナスは、そういうわけに行きませんが。
景気への影響が小さいという点も重要です。遺産がはいったから家を買おう、という人もいるでしょうが、多くの人は「とりあえず預金しておいて、少しずつ使おう」とするでしょうから、「増税したら急に消費が減って景気が悪化した」ということにはなりにくいのです。
消費税増税は「駆け込み消費と反動減」という景気に好ましからざる影響を与えますし、所得税増税も消費を冷やして景気を悪化させやすいのですが、それと比べると相続税の増税のほうがはるかに景気への影響は少ないでしょう。
景気は「税収という金の卵を産む鶏」ですから、景気を殺さずに増税できる、というのは大きなメリットだと言えるでしょう。
兄弟姉妹が相続する場合は高率の課税を
被相続人に子も親もいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。これについては、高い税率を課してもよいでしょう。「子に相続させるために財産を遺した」という人は多いかもしれませんが、「兄弟姉妹に相続させるために財産を遺した」という人は少ないでしょうし、兄弟姉妹が重税に文句をいったとしても同情してくれる人は少ないでしょうから。
もう一つ、子のいない高齢者が老後に受け取っていた年金の原資は、他人の子が支払った年金保険料だ、という観点も重要でしょう。日本の公的年金制度は、現役世代が払った年金保険料を高齢者が山分けする制度なので、子のいない高齢者は他人の子に養ってもらっているわけです。そうであれば、遺った財産は後の世代に返すという制度が望ましいでしょう。
相続税は有望な財源である
人口が減少していく日本ですから、所得税も消費税も増加は見込めず、減少基調が続くでしょう。しかし、永眠する高齢者の数はそれほど減らないでしょうし、結構な額の財産を遺す高齢者も多いでしょう。
特に筆者が着目しているのは、子どものいない人が増えている、ということです。結婚しない人、結婚しても子のいない夫婦が増えているわけで、少子化は日本の将来にとって深刻な問題なのですが、数十年も経てば子のいない被相続人が劇的に増加するということでもあります。したがって、兄弟姉妹の相続に高い税率を課しておくと、莫大な相続税が国庫に転がり込んでくると期待できるのです。
「相続税を増税すると金持ちが海外に逃げてしまう」と心配する人がいますが、筆者はあまり心配していません。所得税が高いと高額所得者が海外に逃げてしまう可能性がありますが、資産家が「子どもの相続税を減らすために税率の低い国に移住する」例はそれほど増えないでしょう。まして、「兄弟姉妹の相続税を減らすために税率の低い国に移住する」という人は本当にまれなのではないでしょうか。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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