コンビニで弁当が買える、本当の理由
空腹を感じた筆者が、コンビニ弁当を買うとしましょう。たいていの街角にはコンビニがあり、店内に入れば、さまざまな弁当が並び、筆者は好みの弁当を選んで購入することができます。
ところでなぜ、筆者が空腹のときに弁当が簡単に買えるのでしょうか? 筆者が「買うお金」を持っているから…ではありますが、たとえお金を持っていても、近くにコンビニがなかったり、弁当の在庫がなかったりしたら、買えませんね。
では、コンビニが筆者の身近なところにあったり、筆者の好みの弁当の在庫があったりするのは、コンビニの人が親切だからでしょうか?
そんなことはないでしょう。彼らは、筆者に弁当を売ることで利益を得ることを目指しているのです。つまり、彼らが「欲張り」で「利益のために働いている」から、筆者が弁当にありつけるのです。
もしコンビニの社長が欲張りでなかったら、「ここに出店すれば儲かるだろうが、面倒だからやめておこう」と思うかもしれません。コンビニの店長が欲張りでなかったら「売り切れた弁当を仕入れれば儲かるかもしれないが、面倒だからやめておこう」と思うかもしれません。そうなれば、筆者は金を持っていてもコンビニ弁当にありつけないかもしれないのです。
共産主義が失敗したのは、人々の「欲張る心」を否定したから
かつて、ソ連という国がありました。いまのロシアと周辺諸国が「ソビエト連邦」を形成していたのですが、その国はロシア革命によって成立し、共産主義を掲げていました。貧富の格差のない国を目指していたのです。
貧富の格差がない、ということは、全員の給料が同じだということです。欲張って金持ちになろうと考えても無駄だ、ということです。
真剣に働いても仕事をサボっていても同じ給料なら、サボる人が増えるのは自然なことですね。仕事のやり方を工夫しても給料が上がらないなら、工夫などせずにのんびりしている人が多いでしょう。
欲張る心があるから、社長がコンビニ店舗を建設したり、コンビニ店長が弁当を仕入れたりするわけで、欲張る心がなくなれば、消費者はほしいものが買えなくなるかもしれません。
結局、ソ連の経済はうまく行かず、ソ連は共産主義をやめて米国的な資本主義の国になりました。中国も、かつては貧富のない国を目指していましたが、鄧小平氏が米国的な経済システムを導入したことで経済が発展しました。最近、習近平氏が「共同富裕」というスローガンで平等な社会を目指しているように見えますが、それが人々の欲張る心を失わせてしまうようだと、中国の発展にマイナスに働くかもしれませんね。
適度な貧富の格差は必要
要するに、貧富の格差がゼロになってしまうと、経済がうまく行かないのです。適度な貧富の格差、つまり「頑張って働けば豊かになれる」という状況が必要なのです。
その意味では、格差が大きすぎることは問題です。家が貧しくて教育が受けられず、給料の低い仕事にしか就けない、という子どもがいるようでは、経済がうまく回らないでしょう。日本では義務教育が無償であり、高校の無償化も検討されているようですので、それほど心配していませんが。
一方で、「宝くじに当たれば豊かになれる」というのでは、国民の勤労意欲は高まりません。同様に、たまたま裕福な家に生まれた人は豊かに暮らせる、というのでは、やはり勤労意欲は高まらないでしょう。筆者が相続税率の引き上げを主張しているのは、遺産が人々の勤労意欲を高めないからです。
皆が好む商品が、市場へ潤沢に流通するワケ
ソ連では、経済がうまく行かなかったため、少しは給料に格差をつけることにしましたが、やはりうまく行きませんでした。「パンを大量に作った職人には褒美を出す」と決めたところ、「大量とはなにか」という問題になり、「パンを100キログラム以上作った職人には褒美を出す」といった制度になりました。
そうなると、職人たちは重くて硬くて不味いパンを大量に作るようになり、消費者の幸せがむしろ遠のいてしまったのです。
「美味しいパンを作ったら褒美を出す」という法律を作りたかったのでしょうが、すべてのパンを役人が試食して選ぶ、ということは到底できなかったのでしょう。
その点、日本や米国のパン職人は「美味しいパンを作れば、高く売れて儲かって金持ちになれる」と考えるので、美味しいパンを作るために一所懸命に働きます。需要と供給の関係で値段が決まるシステムだと、美味しい物は多くの人が買いたがるので、値段が上がります。
だれがなにを作るのかを政府が決め、値段も政府が決めるという制度は、合理的に見えますが、実際にやってみると褒美の与え方がむずかしく、うまく行かないのです。
市場経済であれば、パン職人が美味しいパンを作ろうと努力するだけではありません。パンの人気が落ちてご飯の人気が高まれば、パンの値段が下がってコメの値段が上がるので、小麦農家がコメを作るようになり、人々がほしがるもの(コメ)が従来よりも多く生産されるようになる、ということも期待できるわけですね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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