景気は緩やかな回復を続ける見込み
景気は、緩やかに回復しています。月例経済報告は「景気は、一部に足踏みが残るものの、緩やかに回復している」としています。景気は自分では方向を変えないので、何事もなければこのまま緩やかな回復を続けるでしょう。あとは、何か起きそうなのかを考えればいいのです。
国内経済を見ると、少子高齢化による労働力希少(労働力不足と呼ぶ人が多い)によって、賃金が上昇しています。この流れは今年も続くでしょうから、「賃金が上昇し、物価はそれより少し緩やかに上昇し、差し引きした実質賃金が緩やかに増加する」という望ましい経済の姿が予想されます。したがって、消費の腰折れは無さそうです。
労働力希少は、企業の省力化投資を促すため、その面でも景気にプラスの影響があるでしょう。加えて日本経済が効率化していくわけですから、労働力希少のメリットは大きいわけです。政府がむやみに外国人労働者を増やして労働力希少のメリットが損なわれないことを祈ります。
インバウンドも、順調な増加を続けると期待されます。治安がよく、清潔で、滞在費が安く、観光資源が豊富な日本は、外国人旅行者に好かれるでしょうから、リピーターも多いでしょうし、評判を聞いて日本に来たいと考えている外国人も多いでしょう。オーバーツーリズムを懸念する声も聞かれますが、景気という観点からは大歓迎です。
財政金融政策が景気に影響することも無さそうです。財政面では、景気を冷やしそうな増税は予定されていないでしょうし、金融政策面では緩やかな利上げが見込まれますが、景気という観点からは、金利が多少上がったくらいでは影響は限定的です。「金利が0.25%上がったから設備投資を手控えよう」などという企業はまれだからです。
海外情勢を見ると、米国でトランプ政権が誕生することが波乱材料かもしれませんが、過度な懸念は不要です。8年前に「何が起きるかわからない」という恐怖がありましたが、前回のトランプ政権時の米国経済は順調でしたから、今回も経済政策面での大きな懸念はなさそうです。外交面では難しいことも起こりそうですが、日本経済への影響は限定的でしょう。
中国経済は、相当深刻な状況にあるようです。不動産バブルが崩壊した影響が甚大であることに加え、習近平政権が経済の発展より共産党政権の安定を重視していることから、起業しようという人が減っていて、富裕層の海外移住も増えているようです。したがって、長期的には見通しがかなり暗いのですが、短期的には中国政府が景気対策を頑張るでしょうし、仮に不況が続いたとしても、資源大量消費国である中国の景気が悪いということは資源価格安定というメリットも見込まれますので、日本経済への打撃は限定的でしょう。
国際紛争が激化して資源価格が高騰するといった心配も、それほど大きくなさそうです。
少子高齢化で景気の波が縮小中
少子高齢化による労働力希少は、「不況だと失業者が増えて、消費が落ち込み、景気がさらに悪化する」という従来の景気循環メカニズムを変える力として働きます。景気が悪くても失業が増えないので消費の落ち込みが限定的となるからです。
それ以上に重要なことは、高齢者の所得は安定しており、したがって高齢者の消費も安定しているということです。高齢者の比率が高まると、消費の振れが小さくなるのです。同時に、高齢者向けの仕事をしている若者の所得も安定するので、二重の意味で安定します。極端な話をすれば、若者が全員で高齢者の介護をしている経済では景気の波が皆無なわけです。
したがって、少子高齢化が進むと、景気の波は小さくなっていきます。そうなると、誰も景気の予想に関心を持たなくなるかもしれません。景気予想屋である筆者としては悲しい限りですが、筆者は定年退職した身なので、打撃は大きくありません。かわいそうなのは、景気予測を仕事にしている現役の後輩たちです。
というわけで、筆者が景気見通しを執筆する機会も減っていくでしょう。そこで、最後に愚痴を記しておきます。
今回起きているのは、景気の波が小さくなるから景気予想屋への需要が減っていく、ということなので、仕方のないことです。しかし、景気予想屋の存在感が大幅に縮小したのは、はるか昔のバブル崩壊後でした。バブル期までは、社会貢献的な意味も込めて景気予想屋を多くやとっている金融機関が少なくありませんでしたが、それらの金融機関に余裕がなくなり、景気予想屋を抱えるコストを削減したのです。
代わりに存在感を増したのが「株価や為替や金利の予想屋」といった「マーケットエコノミスト」です。同じ情報でも、稼げる情報の生産にシフトしたということでしょう。
今後についても、マーケットエコノミストの存在感は大きいままでしょう。景気は変動しなくても株価等々は変動するからです。せいぜい筆者も「老後のたのしみとしての株式投資」のためにマーケットエコノミストの情報を活用することにしましょう。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
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