為替レートの基本は「日米物価水準の一致」
為替レートというのは、通貨と通貨の交換比率のことですが、本稿ではドルの値段のことを為替レートと呼びます。その基本は、両国の物価水準がおおむね同じになることです。
1ドルが1円だったら、日本人が円をドルに替えて米国に買い物に行くでしょう。銀行にはドル買い注文が殺到してドルの値段が上がるはずです。米国に買い物に行きたい人がいなくなるまで上がるとすれば、日米の物価水準が同じになっているはずですね。
反対に1ドルが1万円だったら、米国人がドルを円に替えて日本に買い物にきますから、ドルは値下がりするはずです。
正確に同じ値段にはならないので、「おおむね同じ」と考えましょう。日米で牛肉の値段が同じになる為替レートと自動車の値段が同じになる為替レートは異なりますし、米国まで買い物に行く費用(実際には通販で買った場合の輸送コスト等)が必要だからです。
物価上昇率格差を考えれば…現在は「歴史的な円安」
海外へ旅行した人は口々に「海外は物価が高い」といい、日本へ旅行に来た人は口々に「日本は物価が安い」といっているようですから、現在の為替レートは日米の物価水準が等しくなる為替レートから乖離しているのでしょう。
日銀が「実質実効為替レート」というものを発表しています。名前が紛らわしいので、筆者は「輸出困難度指数」と呼んでいるものです。外国と日本の物価上昇率格差を考慮したうえで、現在の為替レートが過去と比較して輸出しやすいレートか否かを示すものです。数字が大きくなると輸出が困難だ、ということを意味しています(解説は文末)。日銀の発表している数字を見ると、現在のレートが過去と比べて大幅に輸出しやすいレートだということを示しています。
輸出企業の現地生産化投資が続くと、円安持続も
輸出しやすい為替レートならば、輸出が増えて、輸出企業が持ち帰ったドルを売るのでドルが安くなるはずだ、というのが理屈なのですが、実際にはそうなっていません。それは、輸出企業が海外現地生産を増やしているからです。
「いまの為替レートが未来永劫続くとするならば、日本に工場を建てて日本で製品を作って輸出するだろう。しかし、仮に将来円高になったとすると、輸出が難しくなり、日本にある工場が無駄になってしまうかもしれない。そんなリスクをとるよりは、売れる場所に工場を建てて生産するほうが安全だ」ということのようです。
それ以外にも、「日本国内は、少子高齢化で労働力不足が深刻化して行き、工場労働者の確保が難しくなっていくかもしれない」「人口が減少していく国内よりも、人口が増加していく海外に工場を建て、成長するマーケットを抑えてしまいたい」といった理由もあるようです。
こうした傾向は今後も続く可能性があるため、「いまの為替レートの水準は大幅なドル高円安だから、今後は輸出が増えてドル安円高になる」と考えるのは危険なことなのかもしれません。
経常収支は黒字だが、投資収益を除けばトントン
日本と海外の間の資金のやりとりを記録した国際収支統計によると、経常収支は大幅な黒字となっています。経常収支は「日本国の家計簿」のようなもので、日本が海外との取引で資金の受け取り超過だったことを示しています。
それならば、海外から受け取ったドルが売りに出るのでドル安になるはずだ、と考える人も多いでしょうが、実際にはそうなっていません。その理由は、経常収支の内訳をみると見当がつきます。
経常収支は貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計なのですが、第一次所得収支の黒字が圧倒的に大きいのです。これは、海外からの利子配当の受け取りです。
輸出代金のドルは、多くが売られて円になります。輸出企業が社員に円で給料を払うからです。しかし、投資家が海外に持っている株や債券などの配当や金利を受け取っても、円に替えるとは限りません。むしろ、そのまま海外で再投資するほうが普通かもしれません。したがって、貿易収支等が大幅黒字にならない限り、経常収支が黒字でもドル安円高になるとは限らないのです。
【初心者向け】実質実効為替レート=「輸出困難度指数」とは
日本の物価が上がると米国向けの輸出が難しくなり、米国の物価が上がると米国向けの輸出が簡単になり、ドルの値段が上がると米国向けの輸出が簡単になります。
そこで、「日本のインフレ率」を「米国のインフレ率」と「ドルの値段の増加率」で割ると、米国向けの輸出困難度が算出できます。他の国との間でも輸出困難度を計算して、それを加重平均(重要な貿易相手国か否かを判断して重要な国向けの困難度を強く反映させる計算方法)することで、日本国の輸出困難度指数が計算できます。
それがなぜ実質実効為替レートと呼ばれているのか、筆者にはわかりませんが、重要なことは為替レート(ドルの値段)の数字が増えれば輸出が容易になり、実質実効為替レートの数字が増えれば輸出が困難になる、ということです。上の計算式で、ドルの値段で割っていることを考えれば当然なのですが、間違えやすいので要注意です。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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