(※写真はイメージです/PIXTA)

「国は巨額の借金を抱えている」という言葉に、底知れぬ不安を感じている人も多いと思います。しかし、「国際収支統計」という統計資料にある「経常収支」から数字を読み解いていくと、認識と違う結果が見えてくるかもしれません。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

経常収支は貿易収支、サービス収支などの合計

「国際収支統計」という統計があります。日本人(ここでは日本にいる個人および法人の意味、以下同様)が外国人と行った取引を記録したものです。そのなかで最も重要なもののひとつに「経常収支」があり、その内容は「貿易収支」「サービス収支」「第1次所得収支」「第2次所得収支」を合計したものです。

 

「貿易収支」は輸出から輸入を差し引いたものです。かつての日本は貿易収支が大幅な黒字でしたが、最近では多くの輸出企業が「輸出より、売れるところで作る」という方針に変わっているため、貿易収支はおおむねゼロ(原油価格で増減する)となっています。

 

「サービス収支」は、インバウンド旅行者が国内で支払う飲食費、宿泊費等々から、日本人旅行者が海外で支払う飲食費、宿泊費等々を差し引いたものです。インバウンドの消費は、日本人が働いて外国人が楽しんで対価を日本に払っているわけで、自動車等の輸出と同じようなものだ、ということで「サービス輸出」と呼ばれるのです。かつては赤字でしたが、インバウンドが増加したので、最近では大体ゼロと考えてよいでしょう。

 

「第一次所得収支」は、日本人が海外から受け取る利子や配当から、日本人が外国人に支払う利子や配当を差し引いたものです。日本は、過去の貿易収支黒字が莫大な海外資産となっているため、利子や配当の受け取りが巨額であり、第一次所得収支は大幅な黒字となっています。

 

「第二次所得収支」は、途上国への援助が中心ですから、小幅な赤字です。

 

以上を合計した経常収支は、大幅な黒字となっています。

経常収支は「日本国の家計簿」

経常収支が重要なのは「日本の家計簿」だからです。家計簿が黒字ならば、給料の範囲内で暮らせているので、家計の財産は増えているでしょう。同様に、経常収支が黒字ならば、日本が海外に対して持っている財産が増えているのです。

 

項目別に見ても、経常収支と家計簿は似ています。輸出とサービス輸出は、日本人が働いて外国人が楽しんで、対価を日本人が受け取るのですから、家計簿の給料と似ています。輸入とサービス輸入は、外国人が働いて日本人が楽しんで、対価を日本人が支払うのですから、家計簿の消費と似ています。第1次所得収支は銀行預金の利子、保有株式の配当、住宅ローンの利払いですし、第2次所得収支は赤い羽根共同募金ですね。

 

もっとも、違いもあります。通常の家計簿は、現金(および銀行預金)を管理するためのものなので、株を買ったり、自動車を買ったり、住宅ローンを返したりするとマイナスになるかもしれませんが、経常収支は海外の実物資産や負債などを含めた「純資産トータル」を管理するためのものなので、そこは家計簿と違います。

 

投資家が海外の銀行から預金を引き出して、その金で海外の株を買っても、海外に工場を建てても、海外からの借金を返しても、純資産内部での出入りなので、経常収支には含まれないのです。

経常収支黒字は「我慢の対価」

家計簿が黒字だということは、贅沢を我慢して給料の範囲内で暮らした、ということです。その結果、金持ちになったとしても、周囲から批判されるべきものではありません。経常収支黒字も同じです。

 

かつて、米国から日本の経常収支黒字を批判されたとき、「賭けマージャンで勝ち続けたら友人がいなくなる」と心配した人がいましたが、家計簿の黒字と賭けマージャンの勝ちは違います。賭けマージャンの勝ちは他人が働いた金を使って自分が贅沢をするわけですから、友人がいなくなるのは当然であって、家計簿の黒字とはまったく異なるのです。

 

当時の米国は、「日本が製品を輸出しすぎるから米国製品が売れず、米国民が失業している」ことを批判していたのです。それなら素直にそういってくれればよかったのに(笑)。

経常収支黒字が円高をもたらすとは限らない

経常収支黒字は、日本人が外国人との間で受け取る外貨が支払う外貨より多いことを示しています。そうであれば、受け取った外貨を売る人が増えてドル安円高になりそうですが、そうとは限りません。

 

輸出企業は、受け取った外貨を売って社員に給料を支払いますし、輸入企業は輸入代金のドルを買うので、輸出入の貿易収支はドルの値段に直結します。しかし、日本の経常収支が黒字なのは海外からの利子配当収入が多いからです。投資家は海外から利子配当を受け取ってもドルを売るとは限らず、「利子配当を使って海外の株を買い増そう」などと考える場合も多いので、ドル安円高になるとは限らないのです。

 

最後になりましたが、日本は経常収支黒字が続いているので、海外に持っている純資産は巨額です。資産が巨額で、借金は少額です。「国は赤字で借金が巨額だ」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、それは「地方公共団体ではない、中央政府」が民間部門との取引で赤字で借金をしているということですから、日本国と諸外国との取引についての話ではありません。

 

誤解を避けるために「中央政府は」と言うべきだと筆者は考えているのですが、財務省は危機感を煽るために「国は赤字」と言っているのかもしれませんね(笑)。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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