(※写真はイメージです/PIXTA)

来年1月からスタートするトランプ大統領の新政権。最近の金融市場での話題のひとつとして、FRBが利下げを開始したにもかかわらず、米10年国債利回りをはじめ、米国の長期ゾーンの金利が上昇している点があります。この異例な事態が起こっている背景には何があるのでしょうか? フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が詳しく解説します。

米利下げ開始後の異例な金利上昇

最近の金融市場での話題のひとつは、FRBが利下げを開始したにもかかわらず、米10年国債利回りなど、米国の長期ゾーンの金利が異例に上昇しているという点です。

 

[図表1]は、1962年以降の全14回の利下げ局面における米10年国債利回りの変化をみたものです。利下げ開始1営業日前を0として、それ以降の利回りの変化幅をとっています。

 

[図表1]1962年以降の利下げ開始後の米10年国債利回りの変化幅(全14回)

 

今回【赤線】は、過去14回の利下げ局面のうち、2番、3番を争う10年国債利回りの上昇幅です。この動きについて、金融市場では「債券市場が、FRBの利下げにNoと言っている」と指摘されています。より一般的には、「景気堅調下での利下げ」や、「トランプ氏の政策による景気刺激やインフレ圧力、財政赤字の拡大」が利回り上昇の背景と考えられているようです。

米利下げ開始後の意外な2年-10年フラットニング

債券市場がインフレや財政赤字の拡大を懸念しているとすれば、米国債のイールド・カーブ(利回り曲線;次節に【直近の画像】を掲載)は「スティープ化」しても良さそうなものです。

 

イールド・カーブのスティープ化とは、(2年金利よりも5年金利、5年金利よりも10年金利、10年金利よりも30年金利といった具合に)、より長い年限の債券ほど利回りが上昇することを指します。言い換えれば、「長短金利差の拡大」です。

 

インフレや財政悪化の懸念が出る場合、長めの金利ほど投資のリスクが高まるため、投資家は、より高い利回りを要求します。この結果、イールド・カーブのスティープ化が生じます。

 

ところが、今回の利下げ開始以降、イールド・カーブは逆に「フラット化」しています。

 

[図表2]は、1962年以降の全14回の利下げ局面における「米2年ー10年金利差」(=10年国債利回りマイナス2年国債利回り)の変化をみたものです。利下げ開始の1営業日前を0として、それ以降の金利差の変化幅をとっています。

 

[図表2]1962年以降の利下げ開始後の米2年-10年金利差の変化幅(全14回)
[図表2]1962年以降の利下げ開始後の米2年-10年金利差の変化幅(全14回)

 

そうすると、今回【赤線】は、利下げ開始以降に「米2年-10年金利差」は、いったんは拡大したものの(=2年金利に比べて、10年金利のほうがより上昇した;[図表2]の【赤線】が上昇)、その後はトランプ氏の勝利オッズが高まった10月を通じて縮まったことがわかります(=10年に比べて、2年金利のほうがより上昇した;[図表2]の【赤線】が低下)。

 

[図表3]は、米2年-10年金利差を時系列で表したものです。11月8日金曜日時点で、米2年-10年金利差は「0.04%」までフラット化しており、再度の「逆イールド」(長短金利の逆転)が視野に入ります(→債券市場の人たちにとっては「大きな出来事」です)。

 

[図表3]米国の2年-10年金利差(10年国債利回りマイナス2年国債利回り)
[図表3]米国の2年-10年金利差(10年国債利回りマイナス2年国債利回り)

 

たしかに、[図表2]をみるかぎり、利下げ開始以降にイールド・カーブがフラット化することは珍しいことではありません。

 

ただ、今回は「景気堅調(との金融市場の見方)」に加えて、「トランプ氏の政策による財政悪化」も見込まれているため、イールド・カーブがフラット化するのは解せません。

 

今般、「米2年-10年金利差」でみるようなイールド・カーブがフラット化している背景は、より短期ゾーンのイールド・カーブが教えてくれるかもしれません。

 

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