(※写真はイメージです/PIXTA)

来年1月からスタートするトランプ大統領の新政権。最近の金融市場での話題のひとつとして、FRBが利下げを開始したにもかかわらず、米10年国債利回りをはじめ、米国の長期ゾーンの金利が上昇している点があります。この異例な事態が起こっている背景には何があるのでしょうか? フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が詳しく解説します。

FRBを「信仰」する債券市場

以上の観察を、筆者の解釈をふまえてまとめると、9月の利下げ開始以降、

 

・米国債の利回りは上昇しており、インフレや財政悪化への懸念がその背景とされている

・他方で、(インフレや財政悪化への懸念が金利上昇の背景であれば、たとえば、「2年-10年金利差」でみたイールド・カーブはスティープ化するはずだが、実際には)「2年-10年金利差」でみたイールド・カーブはむしろフラット化しており、直観とは逆に「インフレの鎮静化」(もしくは、長期ゾーン金利のリスク・プレミアム縮小)が織り込まれている

・その背景は、「利下げ織り込みの急速な解消」にあると思われる。なぜなら、今後の利下げが少なく/小さくなれば、実体経済は引き締め圧力を受け続けて、インフレが鈍化する可能性が高まるためである

 

言い換えれば、債券市場は、

 

・「今景気が強いなら、FRBはさほど利下げしないだろう」

・「トランプ氏の財政政策で景気がさらによくなるなら、FRBはもっと利下げをしないだろう。場合によっては再利上げもあるだろう」

と考えているようです。

 

すなわち、債券市場は、①FRBでしか支えられないほどの米国債の債務残高、②トランプ政権の誕生、をみてもなお、FRBの「インフレ抑制」に全幅の信頼を置いているようです。彼らは「過去40年のディスインフレ期を生きている化石」のようです。

ソフト・ランディング/ノー・ランディングを見込む市場

あらためて、[図表6]に、1962年以降の全14回の利下げ局面における「米2年-10年金利差」(=10年国債利回りマイナス2年国債利回り)の変化を示します。

 

[図表6]1962年以降の利下げ開始後の米2年-10年金利差の変化幅(全14回)
[図表6]1962年以降の利下げ開始後の米2年-10年金利差の変化幅(全14回)

 

すると、FRBの利下げ開始後に、「米2年-10年金利差」でみたイールド・カーブがフラット化するときは、「ソフト・ランディング」や「ノー・ランディング」のケースが多くなっていることがわかります。とても望ましい絵です。

 

これまでの多くのケースでは、①「利上げ&インフレの鎮静化観測&イールド・カーブのフラット化」→②「利上げ打ち止め&景気後退観測or利下げ観測&逆イールド」→③「利下げ開始&逆イールドの解消&景気後退&今後の景気回復観測」となります。

 

最近まで我々は③の位置にいたわけですが、仮に①に舞い戻るとすれば、「景気後退はだいぶ先」ということになり、「イールド・カーブのフラット化」⇒「ソフト・ランディング」や「ノー・ランディング」は説明されます。

 

ただし、その前提は、FRBが(たとえば)トランプ政権の政策によるインフレ圧力に対して利上げで抗したり、トランプ氏による金融政策への介入や利下げ圧力そのものに抗したりすることができるということです。

 

FRBがそれをできなければ、イールド・カーブは大きくスティープ化して、実体経済や株価に悪影響が生じるでしょう。

 

イールド・カーブが織り込む「ソフト・ランディング」や「ノー・ランディング」は、(いつでもなんでも貨幣発行で救済する、そして、富裕層支援のバイアスがかかった≒インフレ・バイアスの)「FRBへの信頼」に依拠しています。

 

 

重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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