(※写真はイメージです/PIXTA)

「うちの親はまだまだ元気だから、認知症対策なんて必要ない」と考える方も少なくないでしょう。しかし、相続の視点で見ると、認知症になってからでは手遅れになりかねません。本稿では、親が健康なうちに認知症対策を講じ、成功した事例を通じて、大野紗代子税理士がその重要性を解説します。

200坪の名古屋の土地…その驚きの資産価値

そこで私は栗田さんに、「なるほど。ちなみにご自宅兼医院はどちらにあるのでしょうか?」と聞くと、名古屋の中で住みたい街ランキング1、2位の常連の街にあるということでした。

 

しかも、大体200坪ほどあるというではありませんか。価格にすると、土地だけでも簡単に見積もっても3億円ほどになります。

 

そこで私は「不動産の所有状態はどのようになっていますか?」 とお伺いすると、栗田さんは「親父が亡くなった時に相続を担当した税理士が母さんと共有にした方がいいって言うんで、土地と建物は俺と母さんの共有になってるはずだ」と答えました。

 

「教えてくださり、ありがとうございます。ちなみに、お母様のご年齢はおいくつですか?」私が続けて問いかけると、「正しくは覚えてないけど90は超えてたはずなんだよなぁ…。最近、年のせいか、砂糖と塩を間違えたり大変なんだよ」と答えました。

 

それを聞いて私はすぐに、栗田さんとお母様の共有となっている土地建物を家族信託することをお勧めしました。 

家族信託を早急に決断した理由

「家族信託というのは、財産管理の一つの方法のことを言います。今、お父様の相続の際に土地建物は栗田さんとお母様の共有にしたとのことですが、共有状態となっている土地建物の不動産売却には、栗田さんだけではなくお母様の意思も必要となります」

 

私の話を聞いて、それまでソファの背もたれにのけぞって座っていた栗田さんの姿勢が徐々に前のめりになります。

 

「最近、お母様の生活の中で些細な変化が起きているようですが、たとえばこのままお母様が認知症になってしまった後に不動産を売却したいと思っても、お母様は売却の意思表示ができなくなります。そうなると、家を売却したいと思ってもできなくなるのです」

 

それを聞いて、一気に栗田さんの表情は変わりました。

 

「そうなる前に、お母様が意思表示ができるうちに、ご自宅の共有状態を維持したままでもお母様の持分である1/2も栗田さんが管理できるよう、家族信託されることをお勧めします」

 

私が一通り話し終えると、栗田さんはすぐに「最近母さんの物忘れが進んでいるように思うから、急いで家族信託とやらを進めてくれ!」と言いました。

 

早速私は、今後具体的にどのようなスケジュールで動くのかについて話を進めました。

 

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