アパート経営法人化のメリット・デメリット
たいていの場合、最も所得やリスク分散の効果が高いのは(1)の法人が不動産を所有する方法だと考えられます。そこで、(1)を前提に、個人で保有する場合との比較でメリット・デメリットを挙げていきます。
メリット
〇個人と法人で所得が分散される
……個人の累進税率が高くなることを抑制できる
〇法人の税率はほぼ一定
……約22%~35%程度。課税所得800万円以下は税率が低い
〇物件売却までの期間によって税率が変わらない
……個人が物件を売却する場合、売却年初時点で所有期間5年以下だと税率39.63%。5年超だと税率20.315%。短期間で不動産を売却する場合、法人の税率のほうが低い。
〇減価償却は任意
……法人の場合、赤字のときには減価償却限度額を全額費用計上しなくともよい。個人の場合、減価償却費は償却限度額を強制償却することになる。
〇欠損金は10年間繰越が可能
……法人の場合、単年度に生じた赤字を翌期以降に繰り越し可能。また、個人と違い、売却損益と賃貸事業の損益を通算できる。
〇役員は小規模企業共済に加入可能
……法人の役員に就任した場合、小規模企業共済という自営業のための退職金積立制度に加入できる。掛金は年84万円まで積み立てることができ、個人所得税の節税になる。積立金は引退時に退職金として支給されることとなり、受け取る際にも税制優遇がある。
〇相続対策を行うことができる
……法人の株式や出資を少しずつ子供に生前贈与することができるなど、相続に向けての施策を打ちやすい。
デメリット
〇会社設立と毎年の決算業務に事務手間と費用がかかる
……会社の設立に登記費用と司法書士費用がかかる。また、毎年の決算申告について税理士費用がかかる。
〇赤字でも住民税均等割がかかる(最低でも約7万円/年)
……法人の場合、原則として、存在する限り住民税均等割を決算申告時に納付する必要がある。
〇社会保険の加入義務について検討する必要がある
……役員(特に代表取締役など代表権ある役員)に定期的な給与を支給する場合、厚生年金適用事務所に該当し、社会保険に加入する義務が生ずる可能性がある。
〇不動産から赤字が生じたとき、給与などの所得と損益通算できない。
……個人で不動産を保有する場合、不動産所得が赤字になったときに給与所得などのほかの所得と損益通算して還付を受けることができるが、法人保有の場合は個人と法人で人格が異なるため損益通算ができない。
〇個人と法人の資金計画を考える必要がある。
……法人が保有する不動産が生んだキャッシュは法人のお金なので、個人の自由に使えるお金ではない。自由に使いたいお金は給与などで個人に還元する必要がある。