広い邸宅に暮らす90代の母親はがんを患っており、70代~60代の子どもたちも真剣に相続を考えるタイミングとなりました。しかし、母親の希望と子どもたちの考えが合わず、話し合いの席は大混乱に…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。
父の遺産を相続し、ひとり暮らしを続ける90代の母
今回の相談者は60代の佐藤さんです。がんのため余命宣告を受けている90代の母親の相続対策について相談したいということで、筆者のもとに訪れました。
「母は10年前に父を亡くしてから、自宅でひとり暮らしを続けています。ここ数年、がんを患っているのですが、年齢が年齢なので、積極的な治療はしていませんが、いよいよ余命宣告を受けてしまいました。とはいえ、現状ではなんとかヘルパーさんの手を借りて、ひとり暮らしが成立している状態です」
「亡くなった父は公正証書遺言を準備しており、母親が全財産を相続しましたが、そのときも正直、揉めまして…」
佐藤さんは4人きょうだいの末っ子で、家族構成は下記のとおりです。
母親…90代、ひとり暮らし
長男…70代、既婚、自宅あり
長女…70代、既婚、自宅あり
二女…60代、既婚、自宅あり
二男…60代、独身、賃貸住まい(相談者)
父親の財産は自宅と預金で合計約1億5,000万円でしたが、相続時には配偶者の特例を活用して相続税の納税は不要となりました。母親は父親が亡くなったあとも、預貯金と年金で不自由のない生活を送っています。
200坪の敷地に建つ、築古の鉄筋コンクリート住宅をどうするか
「父の相続では、遺言書のお陰で問題なく手続きは完了したのですが、2人の姉が遺産を巡って激しい主張を繰り返し、母と大げんかになりました」
長男と佐藤さんがなんとかなだめたものの、このままでは、母親が亡くなったときが思いやられると、佐藤さんはうなだれます。
母親の財産構成は自宅不動産に大きく偏っており、また、自宅は形状から均等な分割が難しく、また現状では、こちらから母親に遺言書の準備を頼める雰囲気ではないといいます。
母親が暮らす実家は敷地200坪の豪邸ですが、敷地に接する道路は一方向のみです。しかも、鉄筋コンクリートの2階建ての建物は敷地のちょうど中心に位置しています。建物は築50年を超え、今後は高額な修繕費が必要になると思われます。
現状の金融資産の残高は不明であり、このまま成り行きで相続を迎えると、問題が噴出する可能性があります。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例