姉との関係悪化のため、母の死も資産内容の詳細も知らされなかったある男性。半ばやけくそになり、成り行き任せにしようと考えた瞬間もありましたが、その行為にとんでもないリスクが潜んでいることに気づかされ…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。
相続できるのは細長い空き地のみ…多額の預貯金はどうなった?
姉との関係悪化で母親の消息を見失い、四十九日が過ぎてから母の死を知らされるという、衝撃の経験をした相談者の佐藤さん。
後日姉から送られた公正証書遺言によると、佐藤さんと、亡き両親の養子になっている佐藤さんの妻は、亡き母親の所有していた、ヒョロッと細長い空き地のみを相続、それ以外のすべてを姉が相続することになっていました(記事『どんどん痩せていく…心配する長男の前から消えた高齢母』参照)。
しかし、土地以外の母親の遺産として、父親から相続した預貯金、母自身が持っていた預貯金、そして母の生前に売却したもうひとつの所有地の売却代金があります。母親は自宅を離れて施設へ入所しましたが、その費用分を差し引いても、かなりの現金が残っていると想定されます。
ただ、それについては遺言書には一切の言及がなく、現状の姉との関係を考えると、尋ねたところで回答がもらえる可能性は高くありません。
「お姉さんから協力を得られない場合でも、相続人であれば、金融資産の残高や取引明細は入手することができます」
筆者の提携先の税理士が佐藤さんにそのようにアドバイスしたところ、佐藤さんは納得したようにうなずきました。
「ですが、それ以外に大きな懸念点があります」
税理士はそういうと、説明を始めました。
姉からは相続税について言及なしだが…放置すると大変なことに
父親の財産は2億円以上あり、相続税の申告もしています。母親はそのうちおよそ半分を相続していおり、また、自身の預貯金も保有していたことから、よほど財産が減っていない限り「佐藤さん・亡き両親の養子となっている佐藤さんの妻・姉」の、3人の相続人の基礎控除である4,800万円を超える財産があると想定されます。
おそらく今回も相続税の申告が必要だと思われますが、姉の手紙にはそのことは一切触れられておらず、どうするのかは不明です。
しかし、仮に無申告だとすると、相続人全員の連帯責任となってしまいます。そのため、佐藤さん夫婦も納税の必要が生じ、無申告加算税などのペナルティが課される可能性もあります。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載相続のプロが解説!人生100年時代「生前対策」のアドバイス事例