周囲を気にするストレスから解放
それにしても、鈴木さんの場合、さすがは手に職、である。シドニーに着いて2週間ほどで、あっという間に仕事は決まった。日本人が経営する美容室だ。
とはいえ、お客の2割ほどが日本人で、残りは外国人だという。日本語で、さまざまな情報が発信されているサイト「JAMS.TV」で見つけた。
「日本でもいちおう、下調べはして、何件かピックアップしておきました。ただ、どんな店なのかは実際に見てみないとわかりませんから」
現地に着いて、実際に店の前を通って、お店の雰囲気はどうか、お客さまはどんな人かを見た。それで、ここだと思った店で面接を経て採用された。給与は2週間に一度、払われる。日本より額面は高いが、生活面を考えるとむしろ足りないと感じている。
「日本人ご夫婦の家の一室を借りることができましたが、それでも家賃は週に300豪ドルです。交通費もバカになりませんので、家から職場まで歩いて20分というのもありがたかった」
所属する店をどんどん変えていく人も多い美容業界だが、鈴木さんは新卒で採用された会社にずっと所属してきた。ワーホリは思い切った選択だったが、鈴木さんをよく知る人たちからは、思わぬ反応が来たという。
「長く続けてきたので、アシスタント時代からお世話になっているお客さまもたくさんいます。その方たちに、ワーホリに行ってみようと思います、と伝えると、『あ、なんかいいと思う』とたくさんの方に言われて」
コロナ禍明けで海外に行くなんて、日本人的感覚でどう思われるんだろうという思いもあったが、逆だった。「行ってきなよ。でも帰ってきてね」とプラスに受け止めてもらえたと語る。それは、うれしい出来事だった。
「実はワーホリという選択肢も何も決まっていないときが、一番つらかったんです。結婚するのか、しないのか。子どもを持つのか、持たないのか。この先どうなるのか、自分でもわかりませんが、これから生きていかないといけないという不安が正直、つらかった」
それは自分が恵まれていたということに、気づいていたからでもある。
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