(※写真はイメージです/PIXTA)

40代の女性が宣告された、深刻な病気と余命。診察室で取り乱す年上バツイチの夫を見ながら、女性はぼんやりと「あること」を考えていました。その後、女性が取った行動とは…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

40代のキャリア会社員女性に下された「余命宣告」

今回の相談者は、40代会社員の田中さんです。田中さんは深刻な病気が発覚し、余命宣告を受けたことで、自分なきあとの相続に不安があると、筆者のもとを訪れました。

 

田中さんの家族は、10歳年上の夫です。2人の間に子どもはいません。また、田中さんの両親はすでに亡くなっていますが、3歳下の妹がひとりいます。妹も結婚しており、男の子と女の子の2人の子どもがいます。

 

「夫とはけんかをしたこともないほど仲がよく、関係は良好です。ですが、残念ながら子どもには恵まれませんでした。私が亡くなれば、相続人は夫と妹ですが、夫のほうが相続分が多いですから、財産のほとんどは夫のものになってしまいます」

 

田中さんは初婚ですが、夫は再婚で、先妻との間に子どもが1人います。そのため、田中さんが亡くなれば、遺産の大部分は夫に相続され、その後は夫と先妻との間の子どもに渡ることになりますが、それに強い抵抗を感じるといいます。

 

田中さんの父親は資産家で、田中さんと妹はそれぞれ不動産や預貯金など3億円程度の遺産を相続しました。

 

「父が亡くなったときは、私もまだ30代だったので、子どもを持つつもりだったのですが…」

診察室で取り乱す夫を見ながら、ぼんやり考えたこと

「私はもともと体が丈夫なほうで、これまでも男性と肩を並べて働いてきました。それが去年、ちょっと体調が悪いと思ってクリニックにかかったら、大学病院を紹介されまして…」

 

大学病院で深刻な病気を宣告されたとき、一緒に説明を聞いていた田中さんの夫のほうが取り乱し、医師が慌てるほどだったそうです。

 

「主治医の先生は、私ではなく夫のほうを気遣っていましたが、私はそのとき、ぼんやり別のことを考えていました。あんまりな話で、自分の非情さがいやになりますが…」

 

田中さんは思い浮かべたのは、父親から相続した財産のことでした。

 

「先祖代々、父の家が守ってきた大切な財産です。父もそれなりに考えて対策をしてくれたおかげで、不動産は手放すことなく相続できたのです。しかし、私は子どもがいませんから、私が先に亡くなれば、せっかく受け継いだ不動産の大半は夫のものになり、その後は夫と前妻の子どもに相続されてしまいます」

 

田中さんから見れば、いくら愛する夫の子どもであっても他人です。それより、血を分けた妹の子どもたちに相続してほしいと考えています。

「父から承継した財産はすべて妹へ」

筆者と提携先の税理士は、田中さんに遺言書の作成をお勧めしました。

 

現状のままでは、相続の割合は夫が4分の3、妹が4分の1です。田中さんが懸念する通り、遺言がなければ、財産の大部分を夫が相続することになります。

 

田中さんが作成した遺言書は「父親から相続した田中さん名義の財産のすべてを妹に相続させる」というものでした。

 

「私が自分の力で築いた財産と生命保険は、遺留分には足りませんが、夫にはそれで納得してもらおうと思います。父からもらった不動産は、妹の子どもたちに継いでもらいたいです」

 

遺言書を作成したことで、田中さんは気持ちが落ち着いた、これで安心したと話してくれました。

遺産配分の「口約束」は危険

子どもがいない夫婦の相続は問題が起こりやすく、田中さんのケースもその典型です。被相続人が遺言書を残さなければ、相続人は配偶者と被相続人の親族(親が存命なら親、親が亡くなっていたら、きょうだい・甥姪)ですが、最も相続分が大きいのは配偶者です。

 

被相続人の配偶者に相続された財産は、いずれ配偶者の親族へと相続されていき、被相続人の家系に戻ることはありません。

 

このようなケースで起こりやすいもうひとつの問題が、口約束によるトラブルです。

 

もし田中さんが「父から受け継いだ財産はすべて妹に相続させたい」と口頭で伝え、夫と妹が了承していたとしても、法的な縛りにはなりません。夫が口約束を反故にすれば、それを黙って飲むしかないのです。配偶者の相続分は、法定割合で決まっているからです。なかには、問題なく約束通りになる場合もあるでしょうが、確実に妹へ相続させるには、口約束ではだめなのです。

 

また、もし田中さんの夫が先に亡くなった場合は、事前に対策をしない限り、遺産の半分は先妻との間の子どもに相続されます。その点も踏まえ、夫婦間、親族間で十分な話し合いと対策をしておくことが重要です。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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