母親所有の実家、ひとり息子は「戻る予定なし」
今回の相談者は、50代会社員の佐藤さんです。80代の母親が亡くなり相続が発生しましたが、わからないことが多く不安とのことで、筆者のもとを訪れました。
佐藤さんはひとりっ子できょうだいはなく、父親は10年前に亡くなっています。
佐藤さんは東京の賃貸マンションで、妻と子どもたちと暮らしています。仕事の関係で生活拠点がすでに東京に築いていることから、今後また実家に戻るという選択肢はありません。
母親を施設に入れたあと、実家を更地にして駐車場へ
佐藤さんの実家は神奈川県の南西部ですが、最寄り駅からは徒歩5分の便利な場所です。
「父が亡くなったあと、母はしばらくひとり暮らしをしていましたが、その後、浴室での転倒が原因で、介護施設に入所することになりました」
佐藤さんは仕事が多忙なうえ、出張も多く、とても母親の介護には手が回りません。また、ここ数年は介護が必要となった妻の母親と同居しており、妻も介護にかかりきりのため、家族によるサポートもむずかしい状況です。
「母を施設に入れたあと、実家は空き家状態でした。私が子どものころに建てた家なので老朽化が激しく、周囲に迷惑がかからないよう、解体して更地にしたのです。そうしたら、コインパーキング用に貸してもらえないかという問い合わせが入り、契約することになりました」
設備類の設置は会社が行い、佐藤さんはなにも負担しないまま、年間100万円程度の収入が入ることになりました。固定資産税は年額30万円程度かかるものの、収支はプラスです。佐藤さんは、母親の介護費用にゆとりができたと喜んでいました。
紹介された税理士に依頼後、のんびり待っていたら…
「母が亡くなったあと、たまたま知り合いと会うことがありまして…」
佐藤さんは、母親を亡くした直後、ばったり古い知り合いと会いました。その方に母親が亡くなったこと、そして相続手続きが必要なことを話したところ、その方の親族に税理士がいるということで、紹介してもらえることになりました。
紹介された税理士に相続の相談をしたところ、相続税は200万円ぐらいだろうといわれたため、佐藤さんは口頭で手続きを依頼したい旨を伝えました。税理士は快諾しましたが、それからサッパリ連絡がないといいます。
「先生1人でやっている事務所のようで、電話もなかなかつながらないのです。私も仕事がありますし、まめに連絡もできませんし、どうしようかなぁ、困ったなぁ、と…」
佐藤さんはのんびりした様子でしたが、筆者が申告期限を確認したところ、あと2ヵ月しかありません。筆者は佐藤さんに相続手続きの流れをざっくりと話し、現状はかなり切羽詰まった状況にあるとお伝えすると、佐藤さんの顔色がサッと変わり、すぐ対応してほしいと、手続きを依頼されました。
駐車場にも「小規模宅地等の特例」が使える
筆者と提携先の税理士は、早速佐藤さんが相続する財産の状況を調査しました。内訳は、現在駐車場として貸し出している実家だった場所の土地と、預貯金およそ500万円です。
土地の評価はそれなりに高いエリアですが、小規模宅地等の特例を活用することで、相続税額を減額できます。
小規模宅地等の特例は、自宅だけではなく、賃貸用の土地にも適用可能です。アパートのほか、駐車場の土地でもOKで、相続税の申告時に適用すれば200m2まで50%減ができます。佐藤さんの母親の駐車場の土地評価は5,600万円、面積は170m2だったことから、減額の適用後は2,800万円の評価になります。
母親の預金と合わせると、財産は約6,100万円。特例適用後の財産評価は約3,300万円となって基礎控除内に収まることから、相続税はゼロとなるのです。
売却できなかったことが幸いし、相続税が「ゼロ円」に
小規模宅地等の特例を使うには、申告期限まで賃貸事業を継続していることが要件です。
佐藤さんの場合は要件を満たしていましたが、一方で、佐藤さんは母親亡きあとまで駐車場を維持することをわずらわしく感じており、相続発生の少し前から、不動産会社に売却先探しを依頼していました。
しかし、立地がいいのに買い手が見つからず、いまに至ります。佐藤さん曰く、不動産会社が「やる気ゼロ」で真剣に対応してくれなかったとのことでしたが、今回に限ってはそれが幸いし、申告期限まで売却せずに賃貸事業を継続したことで小規模宅地等の特例が活用でき、相続税を納付せずにすむという結果になりました。
特例を適用するには、駐車場の賃貸事業の証明が必要
小規模宅地等の特例を適用するには、相続税の申告時に駐車場の賃貸事業を行っていた証明が必要です。通常は毎年の確定申告により、その判断がつきます。佐藤さんも母親に代わって確定申告を行っていたため、その点は問題ありませんでした。
しかし、ときには今回のようなケースにおいて「確定申告をしてきませんでした」という相談者の方もいらっしゃいます。そのままでは、特例の適用ができませんが、確定申告は後から行うことが可能です。昨年と一昨年の分の確定申告をすることで、賃貸事業の継続の証明ができます。
具体的な方法としては、相続税の申告と合わせ、確定申告、準確定申告を提出する段取りを取ることになります。
今回の佐藤さんの案件は、大変慌ただしいスケジュールでしたが、佐藤さん本人の協力もあり、問題なく手続きが完了しました。佐藤さん自身も、駐車場の売却が決まらなかったことがプラスに転じたということが印象深かったようで、
「いろいろなことがグダグダでしたが、なにが幸いするかわかりませんね。今回は本当に運がよかったです」
と、しきりにおっしゃっていました。
今回はたまたまよい結果となりましたが、やはり相続対策は、緻密なシミュレーションが欠かせません。相続発生後に「あのとき、こうしておけば…」と後悔することのないよう、慎重な対応が求められます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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