金融緩和、資産価格上昇が「需要創造=雇用創造」をもたらした
もうひとつが金融政策。金融緩和でお金が有効に使われ始めた。ただし、金融緩和が効果を実現するプロセスはこれまでと違う。
従来の金融緩和では金利が下がり銀行貸し出しが増えることで、遊んでいる金が経済活動に還流したが、いまは銀行が貸し出ししようとしても借り手がいない。
では今回、金融緩和で企業が儲けたお金がどのように回ったかというと、自社株買いと配当である。企業は儲けをまるまる株主に返すことで株価が上がり、その結果として経済の好循環が起こったのである。
米国の家計貯蓄の半分以上は、年金を含めて実質的に株式なので、株価が上がると貯蓄が増え、資産効果で景気が良くなる。
米国の企業部門のフリーキャッシュフローは、特にリーマンショック以降、そのほぼ8割から場合によってはすべてが配当と自社株買いで株主に還元されてきた。家計の給料はさほど増えないとしても、持っている金融資産の上昇が消費のエネルギーになっている。従来とは違うメカニズムによって米国の経済の好循環が支えられてきたといえる。
この結果、利潤率と利子率の乖離が収斂するプロセスに入り、それが今回の金利上昇という形になって現れている、と考えられる。インフレで政策金利が引き上げられたことがひとつのきっかけではあったが、底流にはそういう金利上昇要因があったのである。
だからFRBは、インフレが収まっても簡単には利下げをしないと考えられる。
基調としての米国の高金利、基調としてのドル高
米国経済の成長率が産業革命・技術革新によって他国よりも高くなったのだとすると、その結果として高金利になり、高金利の米国に世界の資金が集まってドル高になっていく。米国のイノベーションの強さが続くとすれば、ドルが強い時代がしばらくは続く。
加えてドル高を支える要因がもう1つある。それはいままでのように米国がどんどん対外赤字を増やす時代が終わりつつあるということである。
1971年のニクソン・ショック以降、米国は金の裏づけがないままにお札を発行できるようになり、どんどんお札を刷って海外からモノを買ってきた。
その恩恵を最初に受けたのは日本で、次に韓国、台湾、そして中国が続いた。中国があれほど強くなったのは、米国がどんどんモノを買ってくれたからである。
しかしいま米国はもうお腹がいっぱいで、これ以上輸入を増やす余地がなくなったということが重要である。米国の輸入依存度(米国人が必要な財のうち、どれだけ輸入に頼っているか)は、1971年のニクソン・ショックまでは10%程度、当時の米国はテレビも服も全部国内で作っていた。
ところがいまや、9割程度を輸入に頼っている。これ以上米国の財の輸入が増える余地がないので貿易赤字は頭打ちになっていくだろう。
他方で、米国の目に見えない対外取引の収入はこれから大きく増えていく。それはサービスと知的財産権、それから資産所得である。これらはいわばサイバー世界の収入と考えるとわかりやすい。
サイバー世界は米国企業の独壇場であるから、そこからの収入がどんどん増える時代に入ってきたのである。
武者 陵司
株式会社武者リサーチ
代表
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