1873年を皮切りに「紙幣」が流通し始めたワケ
「ちょっと、ひどくない?」
七海の冷たい視線を、優斗が笑ってかわしていると、ボスが悔しそうな声を出した。
「あてられてしもうたな」
彼はポケットから取り出した鍵を2人に突き出した。そして、「ガチャッ」と言って手首をひねる。
「これで部屋に閉じ込めて、半日も待てばええわ。まずいクッキーでも食べるやろ」
優斗は、口を半開きにしたまま固まった。まさか自分が出した答えが正解だなんて思ってもみなかった。
一方の七海は、「それはそうですけど……」と憮然としている。
「税金」と「紙幣の普及」
ボスが笑いながら話を続けた。
「まあ、そんな顔せんでいい。あくまでたとえ話や。僕らが紙幣を使うようになったのも、おなかをすかせたからなんや」
「おなかがすくって、どういうことですか?」
優斗の問いかけに、ボスが身を乗り出す。
「おかしいと思わへんか」
そう言うと、彼は真相を語り始めた。
「江戸時代、ずっと銅銭や小判を使ってきたのに、明治になって急に一円札やら十円札やらが流通したんやで。円の紙幣が国立銀行によって初めて発行されたのは1873年。この年に何があったか知っているやろか?」
「1873年は、徴兵令と地租改正でしょ」
ちょうど期末テストの勉強をしていた優斗には朝飯前だった。
「すごいね。よく覚えているわね」
七海にほめられて、優斗も悪い気はしない。
「歴史は得意なんです。といっても、年号だけなんですけどね」
ボスもうれしそうにうなずいた。
「よう知っとるな。その地租改正で、税は米やなくて、紙幣で納めることになったんや。そのためには、もちろん紙幣が必要やろ。みんなが紙幣に対して、おなかをすかした。それでいっきに普及したんや」
「たったそれだけのことで?」
優斗には、にわかに信じられなかった。
「学校とは違うんや。『あかん、宿題忘れてもうた』ではすまされへん。税金を払わんかったら、警察につかまって土地を没収されるんやで。必死になって紙幣を手に入れるしかないねん」
「ですけど、税金が理由で紙幣を欲しがるのなら、紙幣が金と交換できる必要はありませんよね」
七海の冷静な眼差しがボスに向けられる。
「金と交換できたのは、補助輪みたいなもんやな。いきなり紙幣を使えと言われても混乱するやろ。実際に新制度についていけずに土地を失った農家も多い。はじめは、金と交換できるという安心の補助輪が必要やねん。本体の車輪は税金を集めることなんや」
ボスの説明に、「なるほど」と七海が小さくうなずいた。
「仮想通貨が普及しないのも、きっとそれが理由ですね。多くの人が価値を信じていても、おなかをすかせていないから、普及しないんですね。ようやく話がつながりました」
「そやな。もしもこれから、仮想通貨でないと税金を納められないとなったら、みんなこぞって仮想通貨を欲しがるやろな」
ボスの話を聞くうちに、優斗にもお金の正体が少しずつ見えてきた。
「今の説明はわかりましたよ。まだ、なんとなくですけど。でも、全体だと価値がないってのが、よくわかんないです」
「ほな、実際にお金を作ってみたらええわ」
クッキーでも作るかのように、ボスは軽く提案した。そして、「材料を取ってくるわ」と言うと、小走りで部屋から出ていった。
彼のいなくなった部屋には静寂が広がった。
田内 学
お金の向こう研究所
代表
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