あらすじ
キレイごとが嫌いな中学2年生の佐久間優斗は「年収の高い仕事」に就きたいと考えていた。しかし、下校中に偶然出会った銀行員の久能七海とともに「錬金術師」が住むと噂の大きな屋敷に入ると、そこで不思議な老人「ボス」と対面する。
ボスは大富豪だが、「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」と語り、彼の話を聞いて「お金の正体」を理解できた人には、屋敷そのものを譲渡するという。図らずも優斗と七海はその候補者となり、ボスが語る「お金の話」を聞くことに……。
登場人物
優斗……中学2年生の男子。トンカツ屋の次男。キレイごとを言う大人が嫌い。働くのは結局のところ「お金のため」だと思っている。ボスの「お金の話」を聞くために、七海とともに屋敷へと通う。
七海……アメリカの投資銀行の東京支店で働く優秀な女性。当初の目的は投資で儲ける方法をボスから学ぶことだったが、現在はボスの「お金の話」を聞くために屋敷へと通う。
ボス……「錬金術師が住んでいる」と噂の大きな屋敷に住む初老の男性。関西弁で話す。1億円分の札束を「しょせんは10キロの紙切れ」と言い放つなど、お金に対する独自の理論を持つ大富豪。
母の形見の腕時計
新しくいれられた紅茶が運ばれてきて、3人は一息ついた。
そのとき、七海が自分自身の話を始めたのは、ボスの何気ない一言がきっかけだった。
「なかなか素敵な腕時計やな」
シフォンケーキを食べる七海の手元で、くすんだ真珠色の文字盤が光っている。優斗にはお世辞にも素敵な腕時計には見えなかった。古ぼけていて、むしろ彼女の装いには不釣り合いに見える。
しかし、ボスのその言葉で彼女の頰はゆるみ、いつもの隙のない表情を崩した。
「ありがとうございます。でも、古いデザインですよね」
自然な素顔をのぞかせた彼女は、なつかしむように腕時計を触っている。
「母の形見なんです。半年前に病気で亡くなったばかりで」
「それは余計なことを聞いてしもうたな……」
と、ボスはあわてた顔をした。
「いえいえ。逆に聞いてもらえてうれしいです。聞かれでもしない限り、そんな話できないですから。誰にも話さないと、母の存在が消えてしまいそうで不安になります」
声を落として話していた七海は、そこで口をつぐんだ。
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