兄との他愛ない会話から思いついた「答え」
図書館からの帰り道、自転車のペダルをこぎながらずっと考えていた。結局、答えの手がかりすら見つからないまま、自宅のトンカツ屋に着いてしまった。
2階に上がると、兄が畳に寝そべってマンガを読んでいた。優斗は2段ベッドの下の段に腰を下ろす。
「こんな時間に珍しいじゃん。塾、休みなの?」
大学受験を控えた兄はいつも遅くまで塾で勉強をしている。食事のとき以外、ゆっくり話す機会はほとんどない。兄は畳の上にマンガを置くと、大の字になって思いきり手足を伸ばした。
「休憩だよ、休憩。朝からずっと模試受けていたから、すげー消耗してんだよ」
優斗は子犬のように無邪気な目を兄に向けた。
「ねえ、ちょっと聞いていい。まずいクッキーを相手に食べさせる方法ってあると思う?」
首のうしろに手を組んだ兄は、「なんだそれ」と言うと、そのまま腹筋をしながら、器用に話し続けた。
「似たような問題なら聞いたことあるなあ。ペットボトルの水を1万円で売るにはどうしたらいいかって問題」
「そんなことできるの?」
話しながらは、さすがに疲れたのか、兄は腹筋をやめて上半身を起こした。
「いろんな方法があるけど、いちばん簡単なのは、部屋に閉じ込めて暖房をガンガンかけるって答えだよ。そうすれば、水が欲しくなるだろ」
「じゃあ、僕の問題も、おなかがすくまで閉じ込めればいいってことか」
優斗も同じノリでふざけて答えると、兄が人差し指で優斗の顔をズバッと差した。
「それだよ! 絶対それが答えだって!」
まさか、そんなことはないだろう。優斗は苦笑するしかなかった。それでも、久しぶりに兄と他愛ない会話ができたことがうれしかった。
無茶苦茶な方法
あの大雨の日からちょうど1週間後、優斗は七海といっしょにボスの部屋を訪れた。
足取りは重かった。謎を解明してボスの鼻を明かしたかったのだが、結局まともな答えを見つけることができなかったのだ。
部屋に入ると、「よう来てくれた」と笑顔のボスが出迎えてくれた。楕円のテーブルには、すでに3人分の紅茶とパウンドケーキが並べられている。
ボスが棚から取り出したボトルを傾けて、自分のティーカップに茶色い液体をほんの少し注ぐ。甘く焦げたような匂いが優斗の鼻をくすぐった。
「この前も入れていましたけど、その茶色いのって何なんですか?」
「これはブランデーという洋酒や。紅茶には、これがごっつい合うんや」
ボスはティーカップを鼻に近づけて、ゆっくりと香りを吸い込んだ。
「さて、この前の続きといこか。どうしたら、クッキーを七海さんに食べさせられるかという話やった。なんか思いついたやろか」
ボスがいたずらっぽい目で優斗を見つめている。
「これって、答えあるんですか? 無茶苦茶な方法しか思いつかなくて……」
「ほお。無茶苦茶な方法か。それはぜひ聞きたいな」
「きっと、間違っていると思うんですけど、」
恥をかかないように前置きをしたあとで、優斗は自分の思う答えを口にした。
「七海さんをここに閉じ込めて、おなかをすかせれば食べるかなって思って……」
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