あらすじ
キレイごとが嫌いな中学2年生の佐久間優斗は「年収の高い仕事」に就きたいと考えていた。しかし、下校中に偶然出会った銀行員の久能七海とともに「錬金術師」が住むと噂の大きな屋敷に入ると、そこで不思議な老人「ボス」と対面する。
ボスは大富豪だが、「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」と語り、彼の話を聞いて「お金の正体」を理解できた人には、屋敷そのものを譲渡するという。図らずも優斗と七海はその候補者となり、ボスが語る「お金の話」を聞くことに……。
登場人物
優斗……中学2年生の男子。トンカツ店の次男。キレイごとを言う大人が嫌い。働くのは結局のところ「お金のため」だと思っている。ボスの「お金の話」を聞くために、七海とともに屋敷へと通う。
七海……アメリカの投資銀行の東京支店で働く優秀な女性。当初の目的は投資で儲ける方法をボスから学ぶことだったが、現在はボスの「お金の話」を聞くために屋敷へと通う。
ボス……「錬金術師が住んでいる」と噂の大きな屋敷に住む初老の男性。関西弁で話す。1億円分の札束を「しょせんは10キロの紙切れ」と言い放つなど、お金に対する独自の理論を持つ大富豪。
未来に蓄えるもの
優斗と七海がが降りた駅は、優斗も初めて訪れる場所だったが、近くに停まっているピンクの車のおかげで、目的のビルはすぐに見つかった。
車に運転手を残してボスが合流し、3人は2階のオフィスへと向かう。
扉を開けると、軽快な音楽が聞こえてきて、強めのコーヒーの香りが優斗の鼻を刺激した。ここに、未来に蓄えるものがあるというのだろうか。
室内は雑然としていて、優斗の想像した会社のイメージとはかけ離れていた。ボスの部屋と同じくらいのスペースに、高密度に物が置かれている。大量の段ボール箱、ハンガーラック、筒状に巻かれた生地、打楽器のようなものや、何に使うのかわからない針金のかたまりみたいなものもある。
部屋の真ん中にはパソコンデスクが4つ置かれていて、1人の男性が画面に向かってキーボードをたたいていた。
「堂本くん、遊びに来たで」
ボスが大きな声で呼びかけると、その男はこちらを向いて、「ちわっす」と陽気に答えた。
堂本と呼ばれた男は、小麦色に焼けたツヤのいい肌に、整えた口ひげをたくわえている。ひげのせいで40歳くらいにも見えるが、20代かもしれない。
街で会ったら、絶対に近づきたくないタイプだと優斗は思った。見るからに怪しそうな風貌だったのだ。
「年末だから、今日は僕しかいないんすよ。せまいですけど、こっち座ってください」
堂本に案内されて、4人は奥に置かれたテーブルについた。ボスは、優斗と七海のことを軽く紹介してから、堂本に向かって頼んだ。
「君の活動を、彼らに教えてあげてほしいんや」
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