あらすじ
キレイごとが嫌いな中学2年生の佐久間優斗は「年収の高い仕事」に就きたいと考えていた。しかし、下校中に偶然出会った銀行員の久能七海とともに「錬金術師」が住むと噂の大きな屋敷に入ると、そこで不思議な老人「ボス」と対面する。
ボスは大富豪だが、「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」「みんなでお金を貯めても意味がない」と語り、彼の話を聞いて「お金の正体」を理解できた人には、屋敷そのものを譲渡するという。図らずも優斗と七海はその候補者となり、ボスが語る「お金の話」を聞くことに……。
登場人物
優斗……中学2年生の男子。トンカツ屋の次男。キレイごとを言う大人が嫌い。働くのは結局のところ「お金のため」だと思っている。ボスの「お金の話」を聞くために、七海とともに屋敷へと通う。
七海……アメリカの投資銀行の東京支店で働く優秀な女性。当初の目的は投資で儲ける方法をボスから学ぶことだったが、現在はボスの「お金の話」を聞くために屋敷へと通う。
ボス……「錬金術師が住んでいる」と噂の大きな屋敷に住む初老の男性。関西弁で話す。1億円分の札束を「しょせんは10キロの紙切れ」と言い放つなど、お金に対する独自の理論を持つ大富豪。
投資と世界の格差
「ずるいですよ」
口から飛び出た言葉に誰よりも驚いたのは、優斗自身だった。
でも、それが本心だったのだと思う。
(ボスの株式投資による)20億円という金額は、たしかにすごいし、うらやましいとも感じる。トンカツを1食売ったところで、せいぜいもうけは数百円。優斗の両親がどんなに働いたところで、20億円なんて絶対に稼げるはずがない。
「すごい」と言ってしまうと、両親を否定することになる。決して両親がなまけているわけではない。そこには、どうにもならない格差が存在している。
その格差を埋めるために、将来たくさん稼ぎたいと優斗は思っていた。だからこそ、担任にも以前、「年収の高い仕事がいいです」と言ってしまったのだ。
急にポンと出てきた「ずるい」という言葉には、これまで積み重なったいろんな感情が押し込められていた。そして、つまっていた栓が抜けたように、他の言葉も流れ出た。
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