会社を引き継ぎと相続とは、一体で考える必要がある
「親の会社を継ぐこと」には、事業(経営)の引き継ぎと、財産の引き継ぎという2つの側面があります。
後者については、相続人(親の遺産を受け継ぐ権利を持つ人)が、後継者となる子以外にもいる場合は、慎重に検討しなければなりません。
株主と経営者の関係
株式会社の最高意思決定機関は株主総会であり、会社の所有権は株主にあります。社長(代表取締役)も含めた取締役は、あくまで株主から委任を受けて経営を執務するというのが、株式会社の建て付けになっています。
もし、株主と経営者(代表取締役)とが別の人物だとすれば、両者の経営意思が分かれた場合、株主の意思のほうが優先されます。そうなれば、経営者の考える通りの経営ができなくなり、経営は不安定化します。
そこで、経営意思の安定という観点からは、株主=経営者(代表取締役)となっている状態がもっとも安定します。
株主=経営者(代表取締役)であるとは、経営者が、最低でも株主総会議決権の過半数の株式を所有していることです。
詳しい解説は省きますが、株主総会の「特別決議」が可能になる3分の2以上の議決権を経営者が保有していれば、ベストです。
自社株式を集中して承継させれば、相続トラブルにつながりかねない
事業承継に際して、経営を安定化させるためには、株主=経営者となるように、自社株式のすべてを、後継者経営者となる子ひとりに、集中して承継させることがベストです。
株式を承継させるには、贈与、相続、または譲渡(子が買い取る)の方法がありますが、譲渡は子に多額の現金が必要であるため、贈与または相続による移転が一般的です。
つまり、事業承継には、自社株式のすべて、または大半を、後継者に集中して、贈与または相続させる必要があるということです。ここで、問題になるのが、相続人が複数いた場合の遺産分割の公平性です。
例えば、子が3人いて、長男を後継者と決めて、長男に自社株式のすべてを相続させたとします。
このとき、他の2人の子にも長男が承継した株式の価値と同じ程度の価値の財産を相続させることができれば、特に問題は生じないでしょう。
しかし、親に自社株式以外の財産が少なければ、それができません。すると、他の2人の子が不公平を感じてトラブルが生じる場合があります。特に、他の2人の子が取得した遺産が慰留分に満たない場合は、遺留分侵害額請求が求められるなどの係争になる恐れが非常に高いでしょう。
早めの相続対策がポイント
こうした事態を防ぐためには、親の生前に自社株式以外の資産を十分に用意しておくことや、生命保険を適切に活用する方法などがあります。
いずれにしても、事業承継は相続とは切り離せず、一体化して考える必要があるということです。
相続対策には時間がかかる場合もるので、早期に、相続にくわしい税理士に相談しておくことをおすすめします。
会社を継ぐ際のよくある悩みと対策
親の会社を継ぐ際には、多くの人が様々なことで悩みます。記事の最後に、中でも多くの人に共通する悩みと、その対策について簡単に触れておきます。
- ベテラン社員との軋轢が生まれる
- 先代の父親と比較される
- 資金繰りのノウハウがない
ベテラン社員との軋轢が生まれる
親の会社を継いで新たな経営者となった際に、生え抜きのベテラン社員との間で軋轢が生まれることがあります。特に、社員への説明もないまま急に現れて会社を継ぐようなケースでは、こうした事態がよく起こります。
それを避けるためには、いきなり会社を継ぐよりも、従業員として入社してベテラン社員の下で働きながら積極的にコミュニケーションをとっておくとよいでしょう。経営者になった後も円滑な業務進行が可能になります。
先代の父親と比較される
会社を継いだ子が、先代の社長である父親と比較されるのはどの会社でも同じです。特に経営者になりたての段階では、経験も知識も先代に劣るのは仕方ありません。
これを解決するための、安直な近道はありません。遠回りのように見えても、今の自分に出来ることを少しずつ積み上げ、周囲の人々からの信頼を集めていくことが、唯一の方法です。
資金繰りのノウハウがない
経営者の仕事の中で、最も大切なもののひとつが会社の資金繰りです。しかし、資金繰りにもノウハウがあり、経験を積み重ねなければなかなか身につきません。
自分に知識がないのであれば、税理士や、会計にくわしいコンサルタントなどの専門家を上手に活用することをお勧めします。彼らは専門家ですから何でもよく知っていますし、相談しながら経験を積むうちに、やがて少しずつノウハウも蓄積されていくはずです。
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