ベンチャー業界で言われる「社員300人が1つの壁」の意味とは?
記事『WEB広告の表示回数を2倍にしても「購入者2倍」にはならないワケ…〈限界効用逓減の法則〉とは? 』で紹介した「限界効用逓減の法則」は、数が増えるほど1単位あたりの効用が減っていくというものでした。
一方、数を増やして一定水準を超えると、効用はむしろマイナスに転じるという「規模の不経済」が働く場合もあります。
例えばベンチャー業界でも、「社員300人が1つの壁」とよく言われます。創業から順調に成長してきた会社も、300人規模を超えた途端、マネジメントが難しくなるからです。
社員が少人数の頃は互いに仲間意識を持ち、同じゴールを目指して高いモチベーションを維持しながら働くことができます。だから放っておいても、組織は勝手に成長していきます。
ところが社員が300人を超えると、お互いの顔や名前を知らない社員が増え、会社としての一体感が失われ始めます。社内の意思の疎通もスムーズにいかなくなり、業務にも様々な問題が生じ始めます。
そこで組織がバラバラにならないよう、これまでとは違うマネジメント手法に切り替えることができるか。それが、300人を超えても会社を拡大できるかどうかの壁になるのです。
このように、「数が増えたことにより、かえってマイナスの状況が生じる」という場面は、ビジネスにおいて珍しくありません。
これは単なる経験則ではなく、理論的にも裏づけされています。
その理論が、「ダンバー数」です。これは英国の人類学者であるロビン・ダンバー氏が提唱した仮説です。彼が「安定した集団を維持できる個体数には上限がある」と主張したことにより、その上限値を「ダンバー数」と呼ぶようになりました。
ダンバー氏によれば、人間の場合、安定した人間関係を保てる限界は「平均で150人(100人から230人の間)」としています。これは皆さんも、感覚的に納得がいく数字ではないでしょうか。
小学校や中学校でも、1クラス30人として、5クラスくらいなら学年全員の顔と名前を覚えられるでしょう。しかし、8クラスや9クラスになると、学年全員を認識するのは困難になります。
私が知る某ベンチャー企業でも、社員が150人を超えた頃から組織内のまとまりが明らかに低下してしまったため、今では全社員を集めるイベントを定期的に開催し、お互いのコミュニケーション促進を図っているそうです。
最初に話した「ベンチャー企業の300人限界説」とは人数に多少のズレはありますが、いずれにしても「集団の上限値」が存在するのは間違いないと考えていいでしょう。
メンバーの数を減らせば、現場のマネジメントもやりやすく
では、ダンバー数を知ると、ビジネスや仕事のどんな場面で役立つか。
それは、「大勢の人が働く職場で、組織がうまく回らない時」です。
この場合、組織の人数がダンバー数を超えている可能性があります。よって、組織を分割してダンバー数以内の集団を作るといった対応策が有効になるでしょう。「Yahoo!BB」のコールセンターでは、ピーク時にはオペレーターを3,200人も雇っていました。業務そのものは代理店に委託していましたが、その発注先が少なかったため、1つの代理店で400人から600人を使っていたことになります。
ところが、これだけ大人数になると、とても管理が行き届きません。現場のマネジャーはスタッフ全員のスキルや仕事ぶりを把握しきれないし、人数が増えたことで人間関係のトラブルも起こりやすくなります。職場環境の悪化に伴い、人は次々と辞めていき、新人の採用や教育にかかるコストも膨らみました。
はっきり言って、ひどい状態です。当然私は、事態の改善を迫られました。
当時の私はダンバー数こそ知りませんでしたが、「ベンチャー企業の300人限界説」は聞いたことがあったので、「この混乱は、組織の人数が増えすぎたのが原因だろう」と考えました。
そして、200人ずつのユニットに分けて業務を発注することにしたのです。「ベンチャーが300人を超えるとうまくいかなくなるなら、200人以下にしてみよう」と考えたのですが、あとになって考えると、ダンバー数の「100人から230人の間」にきちんと収まっていたことになります。
その結果、現場のマネジメントがしやすくなり、辞める人も少なくなって、オペレーションの品質も安定していきました。「ダンバー数にもとづいて、組織を分割する」という策は、やはり有効だったのです。
このように、組織作りにおいて、ダンバー数が役立つ場面は少なくありません。
特にマネジメントの立場にいる人は、ぜひ有効に活用してください。
三木 雄信
英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」主宰
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