iPhoneは勝ち、ブラックベリーは敗れた…「イノベーター理論」と「キャズム理論」から読み解く〈市場シェア争い〉の厳しい実情

iPhoneは勝ち、ブラックベリーは敗れた…「イノベーター理論」と「キャズム理論」から読み解く〈市場シェア争い〉の厳しい実情
(画像はイメージです/PIXTA)

日々多くの商品やサービスが市場に投入されていますが、普及・定着するのはごく一部です。生き残るには一定の普及率が必要ですが、具体的な数値は「イノベーター理論」と「キャズム理論」から導くことが可能です。 iPhoneとブラックベリーのシェア争いの例から見ていきましょう。※本記事は『孫社長にたたきこまれた「数値化」仕事術』(PHPビジネス新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

「普及率16%の論理」「越えなければならない深い溝」

アイデアや技術は画期的で、一部のマニアには熱狂的に支持されたが、それ以上は広がらず、いつの間にか市場から姿を消していた……そんな商品やサービスは数えきれないほどあります。

 

では、どこまで普及すれば、市場から消えずに残ることができるのか。

 

その問いに明確な数値で答えてくれるのが、「イノベーター理論」と「キャズム理論」です。

 

◆イノベーター理論(エベレット・ロジャース氏提唱)

「イノベーター理論」は、スタンフォード大学の社会学者であるエベレット・ロジャース氏が提唱した理論で、商品購入の態度によって消費者を次の5つのグループに分類しています。

 

●イノベーター(革新者)

新しいものを進んで採用する人。市場全体の2.5%を構成。

 

●アーリーアダプター(初期採用者)

流行に敏感で、自ら情報収集を行い判断する人。オピニオンリーダーとなり、他の消費層に大きな影響力を発揮する。市場全体の13.5%を構成。

 

●アーリーマジョリティ(前期追随者):新しいものの採用に比較的慎重な人。市場全体の34%を構成。

 

●レイトマジョリティ(後期追随者)

新しいものの採用に懐疑的で、周囲の大多数が試しているのを見てから同じ選択をする。市場全体の34%を構成。

 

●ラガード(遅滞者)

最も保守的な人。世の中の動きに関心が薄く、流行が一般化するまで採用しない。市場全体の16%を構成。

 

このように5つに分けた上で、ロジャース氏は「普及率16%の論理」を提唱しています。

 

これは「イノベーターとアーリーアダプターを合わせた16%のラインが、次のアーリーマジョリティやレイトマジョリティに広がるかどうかの分岐点になる。16%を超えると、それ以降は急速に普及・浸透していく」という内容です。

 

[図表1]イノベーター理論

 

この論理で重視されるのは、アーリーアダプターです。

 

イノベーターはとにかく目新しさを重視するので、商品の実用性や利点にはそれほど注目しません。よって、イノベーターの行動に他の人が共感するとは限りません。

 

一方、アーリーアダプターは商品の価値に注目して購入するので、その良さを他の消費者に伝えた場合の影響力が大きくなります。だからロジャース氏は、「商品をマスへと広げるためには、アーリーアダプターへのマーケティングが重要」と分析しました。

 

◆キャズム理論(ジェフリー・ムーア氏提唱)

これに対し、米国のマーケティングコンサルタントであるジェフリー・ムーア氏が提唱したのが「キャズム理論」です。彼はハイテク産業の分析から、「アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間には、容易に越えられない深く大きな溝(キャズム)がある」と示しました。

 

[図表2]キャズム理論

 

たとえアーリーアダプターまで普及しても、この溝を越えなければメジャー市場でブレイクすることはなく、その商品はやがて市場から消えていく。よって、アーリーアダプターに訴求するだけでは不十分であり、アーリーマジョリティへのマーケティングも必要である。これがムーア氏の主張です。

「iPhone」と「ブラックベリー」の命運を分けたもの

こうした理論にぴったり当てはまる事例が、iPhoneとブラックベリーです。

 

初代iPhoneは2007年にアメリカで発売され、日本でも翌2008年7月11日にソフトバンクが独占販売を始めました。

 

一方のブラックベリーは、欧米のビジネスパーソンの間で広く使われていたスマートフォンです。日本では、iPhone発売とほぼ同時期の2008年8月より、NTTドコモが個人ユーザー向けの「ブラックベリーインターネットサービス」の提供を始めました。

 

その2年前からブラックベリーは日本市場に投入されていましたが、当時は法人向けかつ英語のサービスが中心でした。NTTドコモが個人向けサービスを開始したのは、iPhoneに対抗するための戦略だったと考えられます。

 

おそらく関係者の間では、この2つの商品はライバル関係になる予定だったのでしょう。

 

ところが両者の発売に合わせて、リサーチ会社が日本の携帯電話利用者を対象にiPhoneとブラックベリーの認知度を調査したところ、結果に大きな差が出ました。

 

iPhoneの認知度は、発売開始前ですでに52.3%の高い数字でした。さらに、発売開始から5日間で74.7%へと大幅に上昇しました。つまり発売された頃には、携帯電話ユーザーの大半はiPhoneを知っていたことになります。

 

では、ブラックベリーはどうだったかというと、認知度は12.8%と低い数字でした。まさに「キャズム」を越えられずにいる状態です。新しいものが好きで、ITツールにも詳しい一部のマニアだけが知る存在に留まっていたということでしょう。

 

それを裏づけたのが、認知経路です。iPhoneを知っている人のうち、71.5%が「新聞、雑誌、テレビ、ラジオによって」と回答しました。対するブラックベリーは、43%が「パソコン、ケータイなどを利用した際のインターネットアクセスによって」と回答しています。

 

つまりブラックベリーを認知しているのは、普段からITツールを使いこなし、自分から積極的に情報収集するイノベーターやアーリーアダプターに限られたということです。

 

一方のiPhoneは、マスメディアを通じて知った人が大半でした。

 

まだスマートフォンのことをよく知らないアーリーマジョリティやレイトマジョリティにまで一気に訴求したことで、「キャズム」を易々と越えてしまったのです。

 

もちろんこれは、ソフトバンクによる意図的な戦略です。派手な記者会見やマスコミ発表を行い、パブリシティをうまく使って発売前から商品やサービスの認知度を上げる手法は、孫社長の得意技みたいなものです。

 

2つの数字の差を証明するかのように、その後iPhoneとブラックベリーは対照的な道を辿ります。ご存じの通り、いまやiPhoneは機種別で日本のスマートフォン出荷台数の約5割を占めています。OS別で見ればiPhoneは約7割という圧倒的シェアです。

 

一方、ブラックベリーはユーザーが広がらず、「ブラックベリーインターネットサービス」は2017年3月にひっそりと終了しました。「イノベーター理論」と「キャズム理論」は、特にマーケティング戦略や販売戦略の策定に関わる人にとっては非常に重要な理論です。せっかく時間と情熱を注ぎ込んで開発した新商品やサービスを短命に終わらせないためにも、ぜひこの2つを頭にたたきこんでおきましょう。

 

 

三木 雄信
英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」主宰

 

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※本記事は『孫社長にたたきこまれた「数値化」仕事術』(PHPビジネス新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

【新書版】孫社長にたたきこまれた「数値化」仕事術

【新書版】孫社長にたたきこまれた「数値化」仕事術

三木 雄信

PHP研究所

★6万部突破ベストセラー、増補改訂でさらにパワーアップ! ★数字に使われるな、数字を使いこなせ! ソフトバンク元社長室長の著者が、孫正義社長のもとで身につけたのは「問題を数値化して高速で解決する技術」。現実に…

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