当たりが出るまで「サイコロを振り続ける」
サイコロを変形させて、当たりが出る確率を上げることは大事ですが(『「成功の確率は?」…結果を即座に回答できる! ビジネスに役立つ〈大数の法則〉と〈期待値〉とは』参照)、それで満足してしまってはいけません。仮に6面のうち4面が「1」のサイコロでも、振るのが1回や2回だけなら、それ以外の数字が出ることもあります。
よって成功するために重要なのは、「当たりが出るまでサイコロを振り続けること」です。
サイコロなら成功の確率は6分の1と高いので、あきらめずに振り続けることができるかもしれません。しかし、上記の記事で例に挙げたベンチャー投資なら、成功の確率は「せんみつ(1,000分の3)」どころか、さらに低いのが現実です。
ソフトバンクは、2017年に「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を立ち上げる以前から、実はかなりの数のベンチャーに投資してきました。その数は、1,000社ほどに上ります。それだけ投資しても、大成功したと言えるのはヤフーとアリババとガンホーくらいですから、まさに「せんみつ」です。
こうした過去の事例と孫社長の教えから、私はビジネスの成功確率について「鮭の卵理論」を提唱しています。
鮭は1回の産卵で2,000個から4,000個の卵を産みますが、成長して川に戻ってくるのは、わずか4匹だけと言われています。なぜなら、たくさん戻ってくると川が満杯になり、生息する環境が悪化するからです。かといって、2匹より少ないと絶滅してしまいます。よって、安定的に種が保存されるには、2匹が最適な数字ということです。
このように、生き物の世界では、多産多死を前提に均衡が保たれています。それはつまり、生き残った少数が個体として優れている証でもあります。
ベンチャー投資もこれと同じです。ヤフーとアリババとガンホーは、大半の企業が消えていく運命にあるベンチャーの世界で生き残りました。それだけ優れた会社だからこそ、大成功を収めたのです。
裏を返せば、これだけ大きな当たりを引きたいなら、大半のベンチャーは生き残れないことを前提に、できるだけたくさん投資しなくてはいけないということです。孫社長はそれをわかっているから、あきらめることなく、当たりが出るまでサイコロを振り続けるのです。
「くじを引くコスト」を下げる
このように、ビジネスの世界では、「当たるまで続けられるかどうか」が成功のカギになります。では、どうすれば “数うちゃ当たる”を実践できるのか。
その答えは、「くじ箱」に例えると理解しやすくなります。
ビジネスや仕事で成功することを、「くじ箱から当たりを引く」と考えてください。
箱に入った100枚のくじのうち、100円払って1回引いただけなら、成功確率は100分の1しかありません。でもあなたが手持ちの1万円をすべてくじに注ぎ込めば、100枚すべてを引けるので、必ず当たりを出すことができます。
孫社長が数多くのベンチャー企業に投資するのも、考え方としてはこれと同じです。
とはいえ、当たるまでくじを引き続けるなら、何も考えず手当たり次第にくじを引くより、当たりが多そうなくじ箱を選ぶほうが有利です。100枚に1枚しか当たりがないくじ箱より、50枚に1枚当たりがあるくじ箱のほうが、成功確率は上がります。よって、「当たりが多そうなくじ箱を選ぶ」が先ほどの答えになります。
同時に、「くじを引くコストを下げる」のも必要です。
手持ちのお金が1,000円しかない時、1回につき100円のくじ箱は10回しか引けませんが、50円のくじ箱なら20回引けます。
当たる前に手持ちの資金が尽きてしまったら、そこでゲームオーバーになってしまいますから、1回あたりのくじ引きコストを低く抑えることは、「当たるまで続ける」を実践する上で非常に重要です。
孫社長は「未来を読む天才」ではない
ベンチャー投資にあたって、「当たりが多そうなくじ箱を選ぶ」「くじを引くコストを下げる」というルールを実践するため、孫社長がとったのがジョイントベンチャーを作るという戦略でした。ジョイントベンチャーなら、複数の会社が出資するので、ソフトバンク単体が出す資金は最低限で済みます。また、合弁の相手は「アメリカで株式公開している、時価総額3,000億円以上のIT企業(1990年代当時)」に絞りました。
こうしてくじを引くコストを下げつつ、当たりが多そうなくじ箱を選んで、くじを引き続けたからこそ、ヤフーという大当たりを引くことができたのです。
よくソフトバンクは「タイムマシーン経営」と呼ばれ、まるで孫社長が未来を読む天才のように思われることが多いのですが、間近で見てきた私に言わせればまったくそんなことはありません。むしろ「未来は誰にも読むことができない」という事実を前提で物事を考え、成功確率を上げるための戦略をロジカルに組み立てているところが、孫社長のすごさです。
この「くじ箱」の考え方は、営業の仕事などにも応用できます。
①当たりの多そうなくじ箱を探す→買ってくれる確率が高そうな顧客を見極める
②くじを引くコストを下げる→その顧客にアプローチする労力や時間が最も少なくて済む方法を考える
③くじを引き続ける→あとはひたすらアプローチを続ける
こうしてくじ箱のルールを実践すれば、成功確率は格段に上がります。
何も考えず、ただやみくもに顧客リストの上から順に電話をかけている人や、見込みのあるなしにかかわらず1人の顧客にたっぷり時間をかけてしまっている人に比べれば、営業成績は間違いなく上がるでしょう。
だから同じ「数うちゃ当たる」でも、他の人より確実に結果を出すことができるのです。
三木 雄信
英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」主宰
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