「勤務先の将来が心配…」→会社が属する業界の成長率は何%?
「自分が勤める会社の将来が心配だ」
最近は、こんな不安を抱く人が少なくないようです。あの東芝でさえ経営危機に陥る時代ですから、無理もないでしょう。私も、同じような悩みを相談されることが増えました。
そんな時、私が真っ先に投げかけるのがこの質問です。
「あなたの会社が属する業界の成長率は何%ですか?」
なぜなら業界の成長率がわかれば、その人が働く会社の将来がある程度読めてしまうからです。会社が将来成長できるかどうかは、業界の規模にかなり依存します。簡単に言えば、業界全体が拡大していれば、そこに属する会社も成長しやすい。反対に、業界全体が縮小していれば、そこに属する会社も衰退しやすいということです。
これはつまり、「自分が乗っているのは、上りのエスカレーターか、それとも下りのエスカレーターか?」ということです。上りに乗っていれば、自分自身は足を動かさなくても、自動的に上昇していきます。しかし下りに乗ってしまうと、たとえ頑張って自分の足で駆け上ったとしても、今いる位置はどんどん下降していくでしょう。だから私はまず、その人がいる業界がプラス成長なのか、マイナス成長なのかを確認するわけです。
仮に20代の若者が相談に来て、その人がいる業界の過去5年間の平均成長率が-2%だったら、私は迷わず別の業界への転職を勧めます。「たかが-2%くらいで、見切りをつけるのか」と思うかもしれません。
しかし、この数字をあなどってはいけません。
なぜなら年平均の成長率は、「単利」ではなく「複利」で効いてくるからです。
単利と複利の違いは、よく利息の計算を例に説明されます。
元金100万円を年利10%で運用したとしましょう。単利の場合、元金にしか利息がかかりません。よって、1年目の利息は「100万円×10%=10万円」。その後も1年ごとに、同じく10万円ずつ利息がつきます。
一方、複利の場合は、「元金+利息」に対して、利息がかかります。1年目の利息は単利と同じ10万円ですが、2年目の計算式は「(100万円+10万円)×10%」となり、11万円の利息がつきます。3年目はこの利息が元金に上乗せされて、「(110万円+11万円)×10%」となり、12万1,000円の利息がつきます。
つまり、単利なら毎年一定の額しか増えないのに、複利は年が経つごとに雪だるま式に利息が膨れ上がっていくということです。2年目や3年目なら、まだそれほどの差はないように思えるでしょう。
しかし、30年後にはどうなるか。単利なら「元金+利息」の合計は400万円ですが、複利の場合は何と1,744万9,402円! その差は、4倍以上にまで拡大します。つまり長期になればなるほど、複利の効果が発揮されやすいということです。
これはお金を運用した場合の話ですが、市場や業界、会社の成長率についても、まったく同じ計算式が成り立ちます。先ほどの「マイナス2%」は、単利の数字として見れば、それほど大きくは感じないかもしれません。しかし、業界の成長率は複利で効いてくる数字です。マイナスにマイナスをかける相乗効果で、それこそ雪だるま式にマイナスの幅が大きくなっていきます。
このように、単利で見れば小さなマイナスも、複利の考え方にもとづいて10年や20年の長期的なスパンで見ると、実は想像以上に大きなマイナスになるのです。