どんなにおいしい食べ物も、食べ続ければ魅力は減少する
突然ですが、あなたはいちご狩りやぶどう狩りをしたことがありますか?
あるいは、焼き肉の食べ放題はどうでしょうか?
これらの「どれだけ食べても同じ料金」という仕組みのサービスは、最初は「うまい!」と感動しても、食べ続けるうちにお腹が一杯になって飽きてきます。すると、あれだけおいしかったはずの果物や焼き肉が、「もう見るのもイヤ……」と思うくらい魅力を感じなくなってしまう。そんな経験をしたことがある人は多いはずです。
これをミクロ経済学では、「限界効用逓減(ていげん)の法則」と呼びます。言葉はややこしいのですが、要するに「量が増えるごとに、1単位あたりの効用(限界効用)は次第に減っていく(逓減)」ということです。どんなに素晴らしい効用を持つ商品やサービスでも無限に楽しめるわけではなく、食べたり買ったりする量が増えれば、そのぶん得られる満足度は確実に下がっていきます。
投資の量を増やしても、1単位の投資あたりの効用が下がってしまう
この法則が当てはまるのは、食べ物や嗜好品の消費だけではありません。ビジネスや仕事において「量」が関わる物事については、この法則が当てはまる場面が非常に多いのです。
経済とは、「何らかの投資に対して効用を得る活動」です。ところが、投資の量を増やした結果、1単位の投資あたりの効用が下がってしまうことが多々あります。
例えば、自社の商品を販促するため、WEB広告を出したとします。
あるサイトに出稿したところ、最初のうちは高い効果が得られたものの、次第にその数値が下がっていくことがよくあります。広告の表示回数が100万回までは、商品の購入者がどんどん伸びたのに、200万回に増やしても購入者は2倍にならなかった。
こうした現象が起こるのは、まさに「限界効用逓減の法則」が働くからです。
どんなに有効なWEB広告・サイトであっても、そのサイトを見ている人の数には限りがあるので、「そのWEB広告を初めて目にした」という人の数は広告を出すたびに減っていきます。そうすれば当然、新規の商品購入者はどこかで頭打ちになるということです。
外部に業務委託をする場合も、この法則が当てはまります。私がソフトバンク時代にコールセンター業務を外部に委託した時も、それを実感することが数多くありました。
ある代理店に仕事を発注したところ高い成果を出してくれたので、オペレーターの人数を増やしてもらったら、仕事の質が一気に下がってしまったのです。
オペレーターが300人以内で回せる仕事なら順調にこなせたのに、500人規模の業務を発注した途端、「優秀な人材が集まらない」「1人あたりの業務量が増え離職率が高まった」などの問題が次々に発生しました。
発注規模を1.5倍に拡大したら、成果も1.5倍になるかと思いきや、まったくそうはならなかったのです。「量を増やすと、1単位あたりの効用が下がる」という法則は、こんなところにも当てはまるのだとつくづく実感したものです。
さらには個人の仕事についても、限界効用逓減の法則が当てはまります。私は原稿を書く時、2,500字を超えると著しく限界効用が低下します。というと何だかカッコ良く聞こえますが、要するに飽きて集中できなくなるということです。当然、時間あたりの執筆量も文章の質も低下します。日々の仕事についても、この法則が働いているのです。
よって、仕事やビジネスにおいて「量を増やしたのに、なぜかうまくいかない」という場合は、限界効用逓減の法則を思い出してみてください。そこから解決策が見えてくる可能性があります。
先ほどのケースであれば、WEB広告を出稿する媒体や業務委託する代理店を変えてみる。仕事をしていて「投入するコストを増やしているのにアウトプットが伸びない」と感じたら、思いきってその仕事をストップし、別の仕事に取りかかってみる。そうすれば、また期待する効用が得られる可能性が出てきます。
「限界効用逓減の法則」は、あらゆる物事の裏にある普遍の真理と言っていいものです。仕事の生産性を高めるためにも、ぜひこの法則を覚えておきましょう。
三木 雄信
英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」主宰