両親亡きあとの実家を3人きょうだいで共有に
今回の相談者は、50代の山口さんです。夫から相続した、夫の実家不動産の件で困っていると、筆者の事務所を訪れました。
夫の実家は、義母が亡くなった15年以上前から空き家になっています。
山口さんの夫は3人きょうだいの長男で、姉と弟がいます。20年前に義父が他界したときに義母は遺産のほとんどを相続し、そのまま実家でひとりで生活していました。
その後、義母が亡くなったとき、遺産はきょうだいで均等に分けることになり、実家不動産も3人で3分の1ずつ相続することになりました。
長男・二男の死去で、実家は「長男嫁」と「長女」の共有に
「相続はとくに揉めることもなく終わったと聞いています。しばらくして、義弟から実家を買い取りたいとの申し出があり、すでに自宅を建てていた夫と義姉は同意したのです」
ところが、手続きの準備に着手してすぐ、なんと義弟が急逝してしまったのです。そして、義弟の妻からの依頼で、山口さんの夫と義姉が、義弟の持ち分を買い取ることになりました。
「夫の実家は、夫と義姉が2分の1ずつ所有するかたちとなりました。しかし、5年前に夫が亡くなりまして…」
山口さん夫婦には子どもがなかったことから、夫は早い段階で遺言書を準備しており、双方に万が一のことがあった際には、配偶者にすべての財産が相続されるよう、手を打っていました。それにより、夫の実家も山口さんと義姉との共有状態になっています。
「夫の実家はすべてにおいて義姉が主導権を握り、私が勝手に利用することはできません。しかし、空き家の屋根や壁、水回りといった修繕費用は普通に請求されます。築古であちこち傷んでいるので、相当な出費となっています」
義姉と共有状態の空き家を持て余し、どうにかしたいと頭を抱えます。
嫁と義姉、共有する不動産への思い入れに「温度差」
共有を解消するには「一緒に売却する」「どちらかが買い取る」「土地を分筆する」のいずれかが選択肢です。これまでは、きょうだいのだれかが受け継げばいいという暗黙の了解があったようですが、義姉と長男嫁の山口さんの共有となったいま、財産への思い入れに温度差が生じています。
いちばん手っ取り早いのは、一緒に売却する方法ですが、義姉は実家を売りたくないと考えています。また、山口さんから買い取るにしても、時価ではなく、路線価以下でないと買わないと明言しており、その点は山口さんも納得できかねるといいます。
筆者と提携先の税理士が実際に足を運んで確認したところ、土地は駅から徒歩3分という好立地なうえ、150坪の広さがある角地で、無理なく半分に分筆できる形状です。ただし、建物は築50年と老朽化しているため、この際に解体し、土地を2つに分けて義姉と山口さんの単独名義にしたうえで、山口さんは売却するという方法もあります。
いずれにしろ共有を解消する必要があるのですが、山口さんの一存ではどうしようもありません。
話し合いでの解決は不透明…第三者への交渉依頼の可能性も
筆者と税理士からは、まずは山口さんから義姉に共有解消を申し入れてはどうかとアドバイスをしましたが、一方で、これまでの経緯を聞く限り、弁護士等の第三者に交渉を依頼する必要性もあるかもしれないと思われました。
「義姉には何度も話し合いを提案していますが、聞く耳を持たない状態です。話し合いをしてもいつも堂々巡りです。ですが、〈使えない〉〈経費がかかる〉〈売却できない〉となれば、本当にマイナスでしかありません…」
山口さんは肩を落としました。
いくら立地がよくても活用できず、山口さんの夫の代から15年以上も持ち出し状態にあるのなら、単なる「金食い虫」です。
精神面も資金面でも限界にきているという山口さん。義姉の出方を待っているだけではなく、これから積極的に働きかけて解決の道を探る、といって現在は交渉の準備を勧めています。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。