元トップセールスウーマン、スピリチュアルにハマる長男嫁に困惑
今回の相談者は、60代女性の小沢さんです。子どもと孫への相続の件で相談したいと、筆者の事務所を訪れました。
小沢さんは30年前に夫と死別。その後は3人の子どもを抱え、保険会社の営業ウーマンとして必死に働いてきました。小沢さんは仕事に適性があったのか、その後はたびたび売り上げ上位を記録するようになり、給料も高額になりました。健康に恵まれたこともあり、65歳になるまでほとんど休むことなく働くことができたといいます。
「おかげさまで、子どもたちを大学へやれましたし、自分の力で自宅も購入できました。いまは仕事を引退し、悠々自適の毎日なのですが…」
いま、長女とその子どもと同居している小沢さんですが、じつは数年前まで、長男家族と同居していました。長男夫婦に孫も生まれ、平穏な日々でしたが、2人目の子どもがなかなか授からないことを悩んでいた嫁が、あるスピリチュアリストを信じるようになったのだといいます。
「最初は私もそこまで深刻に考えず、〈女の子は占いが好きよね〉ぐらいの感覚で見ていたのですが、日常生活のあれこれまでアドバイスを受けるようになりまして。北欧系のインテリアで統一したわが家へ、巨大な黄色いヒョウタンみたいなオブジェを飾るといわれてケンカになり…」
小沢さんはつらそうな表情を浮かべました。
「〈なんなの、このヒョウタン!〉〈いくらで買ってきたわけ!?〉という話から、300万円以上を例のスピリチュアリストに払っていることがわかったのです。私は長男家族を自宅からたたき出しました」
小沢さんはこの一件がきっかけで、長男家族との関係に深い亀裂が入ってしまいました。
自宅不動産は、同居の孫に受け継いでほしいが…
その後しばらくすると、関西で暮らしていた長女が離婚することになり、孫と一緒に戻ってきました。
小沢さんは、自分の財産は長女とその子、そして近居の二女に残し、継いでほしいと思っています。
「いま暮らしているわが家も、やりくりして残した預貯金も、私の汗と涙の結晶です。長男が引き継げば、嫁を通じてあの占い師のものになってしまう。娘たちと孫に、ぜひ相続してほしいのです」
二女は独身で、事情により結婚の予定がないことから、同居の孫へ確実に自宅を相続させる流れを作っておきたいのですが、すぐに遺贈することになると、まだ未成年の孫を相続の場面に引っ張り出すことになりかねません。
筆者と提携先の弁護士は、まずは長女が引き受けることが適切である旨説明し、さらに、子どもたちへの遺産分割を遺言書で明確にしておくことが重要であると、併せて伝えました。
意識しておきたい「遺言書」の重要性
いくら疎遠になっていても、長男は正当な相続人であり、法定相続分での相続の権利を保有しています。そのため、不動産の分割を指定しておかなければ、長男にも権利が発生します。対策しなければ、相続時の分割協議は必須となり、そこで話し合いがまとまらなければ、調停になってしまいます。また、二女が独身のままであれば、二女の相続人はきょうだいとなることから、その点も気を配っておくことが大切です。
なお、遺言書を長女が自宅を相続する内容にしておけば、それが優先されます。また、長女の相続人はその子(孫)だけであり、きょうだいは関係ありません。長男には遺留分相当額を渡すことにしておけば、減殺請求もなく、トラブルのリスクを下げられます。
上記の内容を聞くと、小沢さんは安堵されたようでした。
「子どもたちへの複雑な思いがあり、ずっと心に重石が乗っているようでした。ですが、でも、これでスッキリしました」
トラブルのない家族関係であっても、いざ相続となると、話し合いがまとまらないことも多々あります。わだかまりがあるなら、なおさらリスクがあるといえるでしょう。そのことからも、自分の意思を実現でき、トラブルのリスクを下げる遺言書は不可欠だといえます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。