兄嫁と父がトラブルになり、二世帯同居の話がご破算に
今回の相談者は、50代の専業主婦の佐藤さんです。将来の母親の相続の件で心配事があるということで、筆者の元に訪れました。
佐藤さんの家族と佐藤さんの母親は、二世帯住宅で同居しています。母親は1階、佐藤さん家族は2階です。
「あの家は、ちょっとややこしくて…。じつは父親が存命のとき、父親名義の土地の上に、同居予定だった兄がローンを組んで建てたものなのです。しかし、完成後に兄嫁が父と険悪になってしまいました。兄は怒って〈他人に貸し出す〉といったのですが、母が嫌がり、ほとぼりが冷めるまで、私の家族が一時的に同居することになりました」
兄は妹の家賃でローン返済、要介護の母のもとには戻らないまま
父親は3年前に亡くなり、自宅の土地は母親と兄が半分ずつ相続しました。段取りは兄がすべて行い、佐藤さんが口を挟める空気ではなかったといいます。そのため佐藤さんは、兄に促されるまま印鑑を押し、150万円の現金だけ受け取りました。
「父が亡くなったあと、兄家族がうちと入れ替わる予定だったのです。ところがどんどん期日がずれ込み、その間に母親が要介護になってしまいました。兄夫婦はのらりくらりして、当初の約束を守ってもらえず…」
「私が兄に〈それなら家賃を払わない!〉と怒ったら、母が〈代わりにお母さんが払うから、出て行かないで〉と泣いてしまって。夫が〈このままではうちがお義母さんをいじめているみたいになってしまう。家賃は払おう〉ということで、現状維持が続いています」
佐藤さんはいまも兄に毎月家賃を払い、兄はそれで住宅ローンを返済しています。
「なにかいえば兄嫁が泣きだし、どうしようもないのです。だからといって、母をひとり置いて出て行くわけにもいかず…」
佐藤さんは、現状に不満を抱くうち、この先にある母親の相続について、不安を感じるようになりました。
「あくまでも一時的な同居で、兄が母を見るのだから、遺産もいらないと思っていました。だから、父の相続の時には納得したのです」
「私は娘ですから、実母の介護をするのは当然です。でも、母親が亡くなったあと、一体どうなるのでしょう。兄は私の夫のお金でローンを返済し、母の介護をすることもなく、母が亡くなったら、きっとわずかなお金で追い出されてしまう…」
佐藤さんは肩を震わせました。
佐藤さんの母親の財産は、自宅の土地半分と、預金が500万円程度。今後の生活や入院・介護を考えると、現金は残らない可能性が高いといえます。
「相続時精算課税制度」の活用を検討
筆者と提携先の税理士は、介護を引き受けた佐藤さんに手厚い内容で、母親に遺言書を書いてもらってはどうかと提案しました。しかし佐藤さんは、兄の性格上、あとから揉める可能性が高いとのことで、うつむいてしまいました。
「母は〈相続前に私へ贈与してもいい〉といっていますが、本心では兄がかわいいのだと思います。それに、もし贈与してもらったとしても、高額な税金がかかるのではないでしょうか。夫は普通のサラリーマンなので、あまり余裕はありません…」
佐藤さんが持参した書類を確認すると、佐藤さんがお住まいの土地の評価は約2000万円で、半分の1000万円が母親名義です。贈与税は約170万円です。
しかし、「相続時精算課税制度」を利用すれば、2500万円までの贈与なら贈与税は課税されず、相続時に相続税で納税することになります。財産が基礎控除以内であれば相続税もかからないので、結果、贈与税も相続税もかからず財産をもらえることになります。
贈与の手続き後、母親から兄に伝えてもらう
贈与の手続きにかかるのは、名義替えの費用と、あとで課税される不動産取得税です。相続よりは割高ですが、佐藤さんは不安の解消を優先したいという希望があることから、まずは母親に説明して、本心を聞いてみることにしました。
「母親がどう思っているかはわかりませんが、まずは穏やかに私の気持ちを説明し、母の意向を聞いてみたいと思います」
筆者からは、もし今回の贈与が実現する場合は、手続きがすべて終わってから、母親を通じて兄へ伝えてもらうようアドバイスしました。母親の意思であることがはっきりしていれば、余計な争いにはなりにくいからです。
兄と感情的な争いにならないよう、母親から贈与の意思を伝えてもらうことが大切です。預金等のほかの財産については、生活費や老後資金に充て、残りを子ども2人で分ける等の遺言書を作ってもらえば、なおいいでしょう。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。