(写真はイメージです/PIXTA)

ユーロ圏の4-6月期成長率は、前期比0.1%となりました。依然としてインフレ率は高い水準にあり、金融引き締めが続いていることから内需は弱く、輸出も伸び悩んでいます。本稿では、ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏・高山武士氏が欧州経済の見通しについて解説します。

2.経済・金融環境の見通し

(見通し:インフレ率低下で実質ベースでの回復が継続)

今後については、当面は2%目標を上回る高インフレが続き、ECBは高めの政策金利を維持させると予想される。そのため、ユーロ圏の実体経済への下押し圧力も継続すると見られるものの、インフレ率の低下が実質ベースでの回復を促すと考える。

 

消費については、インフレ率が低下傾向にあること実質所得環境の改善に寄与するだろう。4-6月期には、雇用者全体の賃金総額が実質ベースで前年比プラスとなった(図表27)。

 

コロナ禍で積みあがった「過剰貯蓄」も消費の底割れを防ぐバッファーとなり得る。そのため、今後は緩やかながら、個人消費が伸びを高めると見ている。

 

 

投資については、景況感の低下や高金利が特に設備投資需要の抑制要因となる一方、「脱ロシア」や復興基金などに後押しされた投資、人手不足に対応するための(ソフトウェアを含む)設備投資に対しては底堅い需要が存在すると見られる。

 

資金調達環境がタイト化する中でも、成長を下支えするだろう。コロナ禍期間中には企業部門も資金余剰を増やしており、「過剰貯蓄」と同様にバッファーとなり得る。

 

戦略的自律を目指すEUの産業政策やドイツで打ち出された中小企業向けの気候変動関連投資への税制優遇といった構造転換促進策もこうした投資需要の喚起に寄与する可能性がある12

 

域外経済については、引き続き期待できない状況が続くと見ている。

 

最大の輸出相手国である米国でも中銀の金融引き締めが成長の重しになっており、特に財輸出をけん引役とした成長には期待できない状況が続くだろう。中国も不動産不況などを受け、経済再開後の需要も活性化しない状況が続くと予想される。

 

上記のような状況から、ユーロ圏経済は下押し圧力が続くなか、ごく緩やかな成長が続くと見ている。暦年でみた欧州経済の成長率は23年0.5%、24年1.1%になると予想する(図表28)。

 

 

インフレ率は23年で5.5%、24年2.9%と予想している(表紙図表2、図表28)。

 

これまでエネルギー・財インフレの低下を受けて総合インフレ率が大幅に低下しており、サービスインフレや賃金、基調的なインフレ率にもピークアウトの兆しが見られる。

 

ECBの利上げで資金調達環境は厳しくなっており、今後、「第二段階」である実体経済への波及も進むと考えられるものの、現状では雇用環境の堅調さは持続している。

 

労働時間の短縮などは一部、構造的な要因により生じている面があり、今後の人手不足感の解消スピードも緩慢なものとなることが想定される。今後のインフレ低下スピードはゆっくりとしたものになると見ている。

 

その結果、ECBの物価目標である2%を上回る期間は長期化し、見通し期間中(24年末まで)は2%目標への低下には至らないと予想している。

 

ECBは、これまでの金融引き締めの実体経済への波及を見極めるため、政策金利の高さよりも高い政策金利を維持する期間に政策の重心を移しており、今後は様子見姿勢を続けるだろう。インフレ率の低下が緩慢であることから、利下げに転じるのは、インフレ率が十分に低下する24年下半期を予想している(表紙図表2、前掲図表25)。

 

なお、この間に域内の金利格差(「分断化」)がECBの金融引き締めを阻害する可能性は低いと考えており、ドイツ10年債金利は23年平均で2.4%、24年は平均2.3%で推移すると予想している(表紙図表2、図表28)。

 


12 Die Bundesregierung, Impulse für Wachstum in Deutschland, 30. August 2023(23年9月14日アクセス)。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年9月15日に公開したレポートを転載したものです。

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