ロイズとは何か
英国※1のロイズは劇画「ゴルゴ13」などにも登場することから、保険業界以外でもある程度は知られていよう。大きな事故や災害が発生した場合に多額の保険金を支払う責任を負い、巨大なリスクから世界を守っている組織のようにイメージされる。2023年の総収入保険料は約521億ポンド、同年の平均為替レートで換算して約9.1兆円※2である。
そのようなロイズを簡単に説明しようとする情報ソースの中には、ロイズを保険会社と称するものも稀にあるが、多くは保険会社ではないと明言している。他方「保険市場」「保険組合」といった手短かな表現ではなかなか実像に近づくことができない。
誤解を恐れず簡潔に述べるならば、何らかのリスクを懸念し保険(再保険を含む、以下同様)をかけたい人<契約者>、その代理人<ブローカー>、適正な保険料を計算する人<アンダーライター>、その保険を引き受けて保険金支払い義務を負う人<保険者>、その手続きや実務を代行する人<エージェント※3>の集合体である。
とはいえ誰でも入れて規律がないような組織が巨大なリスクを負えるはずもない。それぞれに求められる資質を定め、全体の管理と監督に責任を負うロイズ評議会が設置されている。このようなガバナンス体制は1871年以来、ロイズ法という特別法で定められてきた。
保険者からは無限責任を負う個人が減少し保険会社などの法人が増え、保険会社と同様にPRAとFCAの監督下※4に置かれている。そのように時代に応じた変化を経ながらも、集合体という特殊な形態のままで今日に至っている。
では何故その集合体をロイズと呼ぶのだろうか。そもそもロイズ(Lloyd’s)とは「ロイドの店」の意であり、何の店であったかと言えばコーヒーハウスであった。一旦はロイズから離れて、英国においてコーヒーハウスとはどのようなものであったか確認したい。
※2 参考までに東京海上ホールディングス(東京海上日動、日新火災、海外保険会社、その他)の2023年度正味収入保険料(出再保険料は含まず)は約4.8兆円。
※3 エージェントから保険契約締結の権限を委任された代理店をカバーホルダーと呼ぶ。
※4 英国における保険会社規制はFSMA2000(Financial Services and Markets Act 2000)に依拠し、その法改正を受けて2013年からは保険会社の健全性を確保するためのPRA(Prudential Regulation Authority、健全性規制機構)と消費者保護を目的とするFCA(Financial Conduct Authority、金融行動規制機構)が監督を行っている。
