1.経済・金融環境の現状
(振り返り:エネルギー危機の可能性は減少)
欧州経済1は、コロナ禍で大きく落ち込んだ後、回復基調を辿っていたが、ロシアのウクライナ侵攻以降はエネルギー価格が急上昇し、その影響を大きく受けた。
昨年冬は、ロシア産天然ガス調達の急減と価格高騰で、ガス不足と景気後退懸念が強まった。しかし、ガス消費抑制や代替調達推進、暖冬などを理由にエネルギー危機は回避された2。
今年のガス需要期にむけた備蓄も順調に進み、ガス貯蔵率を11月初までに90%以上とするという目標は、2か月以上前倒しで達成された3(図表3)。
EUでは、23年4月から24年3月のガス消費量を平年比で15%削減する目標を維持しているため4経済活動上の制約は続くが、エネルギー危機に陥る可能性は後退しており、エネルギー価格は大幅に下落している(図表4)。
一方で、エネルギー価格が落ち着いた後も、欧州経済の回復の足取りは重く、特に製造業を中心に成長が停滞している。以下では欧州経済の実体経済および金融環境の状況を確認した後、今後の見通しについて述べたい。
1 23年1月1日からクロアチアがユーロを導入しユーロ圏は20か国となった。以下は特に断りがない限り(2022年以前のデータであっても)20か国のデータを扱う。
2 Eurostatによれば、EUのロシア産資源への依存度は大幅に低下し、23年4-6月期時点での依存度は石油が2.3%(21年4-6月期は29.2%)、天然ガスが12.9%(同38.5%)、石炭が0%(同45.0%)となっている。Eurostat, Russia’s share in EU trade falls below 2%, 1 September 2023(22年9月14日アクセス)。
3 ガス貯蔵によりEUの需要の3分の1が満たされるとされる。European Commission, EU reaches 90% gas storage target ahead of winter, 18 August 2023(22年9月14日アクセス)。
4 Council of the EU, Member states agree to extend voluntary 15% gas demand reduction target, 28 March 2023(23年9月14日アクセス)。
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