植田日銀総裁の発言
今回の決定について、会合後の記者会見で植田総裁は「(金融政策の)正常化へ動いたということではない」などと説明、依然としてデフレ脱却を目指す金融緩和は継続するとの考え方を示しました。
ちなみに、2022年12月の会合後も、当時の黒田総裁は、同じように金融緩和継続の考え方に変わりないことを確認しましたが、金融市場では金融緩和の見直しが始まったと受け止めるところとなりました。
以上のように見ると、今回の場合、植田総裁および日銀の説明通りに、10年債利回りの上限修正とは別に金融緩和自体は継続すると金融市場が受け止めたとすると、株高、円安の反応になったことも辻褄が合います。
日銀会合後の米ドル/円の動き…2022年12月のほうが“異質”
それにしても、米ドル/円ということなら、日本の金利のみに反応するということではなく、日米金利差に反応するのが基本でしょう。
そんな日米金利差で見ると、これまで見てきたように、日銀会合後に日本の金利は上昇したものの、米金利も大きく上昇した結果、先週にかけて金利差の「米ドル優位」は拡大していました。
今回の米ドル高・円安は違和感のあるものではなく、むしろ2022年12月の日銀会合後の急激な円高のほうが、金利差を無視した結果だったのです(図表4参照)。
以上のように、日銀の金融緩和継続への反応で円安となり、さらに米金利上昇により日米金利差米ドル優位も拡大したことから、先週は144円に迫る米ドル高・円安が起こったということでしょう。
ただ、そんな動きも、週後半にかけては行き詰るところとなりました。米国債格下げをきっかけに日米などの株価が大きく下落。さらに、金曜日の米雇用統計発表をきっかけに米金利が低下に転じると、米ドル/円も142円割れへ反落となりました。
この動きの要因は、ヘッジファンドなどの取引を反映しているとされるCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションからみえてきます。ひと頃よりは修正されたものの、為替市場はなお米ドル買い・円売りに傾斜する状況が続いていることから、さらなる米ドル買い・円売り拡大に限度があったと考えられます(図表5参照)。