今週の注目点…CPIや米国債入札の米金利への影響
図表1を見ると、米ドル/円の142円が分岐点になっているようです。先週金曜日にそんな142円を割り込んだことからすると、テクニカルには米ドル高・円安は一段落し、米ドル安・円高に向かう可能性が高くなったと考えられます。
また、先週金曜日は米雇用統計が発表されたなかで、米ドル/円は陰線(米ドル安・円高)となりました。7月の雇用統計発表時も、結果を受けて米ドル/円が陰線引けとなりました。その動きは、後から振り返ってみると140円を大きく割り込む「米ドル一段安」のはじまりでした。
この7月のケースが典型的でしたが、このところ雇用統計発表日の米ドル/円の値動きが、当面の方向性と一致するパターンが繰り返されてきました。そういった意味でも、先週金曜日の雇用統計発表を受けた米ドル安・円高が今週一段と広がる可能性は注目されます。
ただし、少し気になるのは、今週の注目イベントとなりそうな米インフレ指標発表について、今のところは前回よりインフレ率が上昇するといった予想が目に付くところです。10日の米CPI(消費者物価指数)、11日の同PPI(生産者物価指数)などの予想は、以下のように前回より強い数字も目立ちます。
〈10日〉米7月CPI=前回3.0%、予想3.3%
同コア=前回4.8%、予想4.8%
〈11日〉米7月PPI=前回0.1%、予想0.7%
同コア=前回2.4%、予想2.5%
上述のように、7月は米雇用統計発表を受けた米ドル/円の下落が、CPIなどのインフレ指標が予想より弱い結果となり、米金利が低下したことで、一段と拡大するところとなったのでした。
今回の場合は、インフレ改善の足踏みと受け止められるようなら、米金利を通じた米ドル/円への影響も7月とは違ったものになる可能性はあるため要注意でしょう。
米金利への影響という意味では、8~10日に予定されている米国債入札が需給への懸念から、米金利上昇要因となる可能性も警戒されます。
先週は、大手格付け会社の米国債格下げが発表されると米国債価格は下落、利回り上昇となりました。米10年債利回りは一時2022年以来の高値である4.2%まで上昇する場面もありましたが、根底には米財政赤字拡大に伴う国債需給悪化懸念があります。
こういったなかで、著名投資家のW.バフェット氏は、「(米国債について)心配していない」として米国債を購入していると語ったことが一部で報道されました。この背景には、米国債の供給増加といった需給悪化懸念の一方で、米国債市場では記録的な「売られ過ぎ」になっているといった影響があるのではないでしょうか。
CFTC統計の投機筋の米10年債ポジションは、6月にかけて売り越しが80万枚以上に拡大するなど空前の規模に達していました(図表6参照)。
このデータを見ると、長期的に割安なものに投資するといった「バリュー投資家」の代表格として知られるバフェット氏が、「売られ過ぎ」の可能性のある米国債を「買う」のは当然の話のように感じます。
以上のように見ると、今後は「米金利は意外に上がらない(米国債価格は意外に下がらない)」となる可能性が高いのではないでしょうか。
そうであれば、そんな米金利との関係から、米ドル/円も上昇は限られる可能性が高く、すでに述べたようにテクニカルには6月末の145円で米ドル高・円安は終わった可能性が高いと考えています。
こういったことを踏まえると、今週の米ドル/円の予想レンジは、138~143円中心で想定したいと思います。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
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