(写真はイメージです/PIXTA)

国際通貨基金(IMF)が公表した世界経済見通しの改訂版によると、23年は世界の実質GDP伸び率は前年比3.0%と、23年4月時点の見通しから上方修正されました。本稿ではニッセイ基礎研究所の 高山武士氏が、地域別の成長率見通しや、国別の改訂状況について解説します。

地域別の成長率見通し

成長率見通しを地域別に見ると(前掲図表2、図表3)、先進国では23年がやや上方修正、24年が不変だった(23年1.3→1.5%、24年1.4→1.4%)。

先進国では米国の消費の底堅さを反映して、23年成長率が上方修正される一方、過剰貯蓄の消化や利上げの影響で、消費の勢いが持続する見込みはないとして24年はやや下方修正された(23年1.6→1.8%、24年1.1→1.0%)。

ユーロ圏は、小幅に上方修正された(23 年0.8→0.9%、24 年1.4→1.5%)。ただし、23年についてはサービスや観光業の好調さからイタリアやスペインで上方修正がなされる一方、製造業の不振を受けてドイツは下方修正されている。

英国は23年の成長率が大幅に上方修正された(23年▲0.3→0.4%、24年1.0→1.0%)。エネルギー価格の低下を受けた内需の強さと、ブレグジット後の不確実性の低下(ウィンザー枠組み2の合意)や、金融部門のストレス低下が反映されている。

また日本はペントアップ需要などで23年の成長率が小幅に上方修正されている(23年1.3→1.4%、24年1.0→1.0%)。
 
新興国・途上国では、23年が小幅上方修正、24年が小幅下方修正となった(23年3.9→4.0%、24年4.2→4.1%)。

このうち、大国である中国は見通し数値に修正されていないが、投資が弱含み、純輸出が弱さを相殺する形になっているとされた(23 年5.2→5.2%、24 年4.5→4.5%)。

同じく大国であるインドは投資の拡大を受けて、23年度がやや上方修正されている(23年度5.9→6.1%、24 年6.3→6.3%)。

戦争当事者であるロシアは、大規模な財政刺激策を受けた回復で23年の成長率が大幅に上方修正されている(23年0.7→1.5%、24年1.3→1.3%)。

 

 

国別の改訂状況を見ると、改訂見通しで公表している30か国中、23年(度)は17か国が上方修正、6か国が下方修正、残りの7か国は横ばいであり、上方修正される国が目立った3

 

 

インフレ率の見通しについては23年が下方修正、24年が上方修正となった(23年7.0→6.8%、24年4.9→5.3%)。コアインフレ率の見通しは23年6.0%、24年4.7%としており、特に先進国が上方修正されている(23年0.3%ポイント、24年0.4%ポイント)。

またIMFは、23年は96%の国で、24年は89%の国でインフレ率が目標を上回ったまま推移すると予測されると指摘している。

リスクについては、米国の財務上限問題解決と金融部門の混乱リスクが当面は抑制されているとして、見通しに対する下方リスクが軽減されたと評価している。

ただし、引き続きリスクは下方に傾いており、具体的なリスク要因として「インフレ長期化」(戦争激化、天候要因)、「金融市場における価格調整」(より緊縮的な金融政策の採用)、「中国の緩慢な回復」(不動産問題など)、「過剰債務の悪化」(特に新興国・発展途上国)、「地経学的分断化の進行」(世界経済のブロック化)を挙げている。

一方、上方リスクとして「インフレの早期低下」を挙げ、これも真実味を帯びてきたと指摘している。

 


1 同日に「世界経済は軌道に乗っているものの、安心するのは時期尚早(Global Economy on Track but Not Yet Out of the Woods)」との題名のブログも公表している。
2 EU離脱協定の一部である、北アイルランド議定書の問題解決を目指す枠組み。本土(グレートブリテン島)から北アイルランドへの物品移動に関関する手続きが簡略化される見込み。
3 修正幅が四捨五入して0.0%ポイントの国を横ばいとした。

 

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年7月26日に公開したレポートを転載したものです。

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