(※写真はイメージです/PIXTA)

老後の住まいとして、都市部を離れ自然の近くで暮らす「移住」を選ぶ高齢者は少なくありません。国土交通省『令和5年度 高齢社会に関する意識調査(高齢期の住み替えについて)』でも、住み替え理由として「自然環境の良さ」や「静かな生活」を挙げる高齢者が多いことが示されています。一方で、移住は生活環境・医療アクセス・家族関係などを大きく変える選択でもあります。理想の住まいが、必ずしも暮らしやすさにつながるとは限りません。

「海が見える場所で暮らしたい」

「最後は海の近くで暮らしたいね」

 

そう話していたのは、東京都内で長く暮らしてきたA彦さん(70歳)と妻のB江さん(69歳)です。A彦さんは会社員として定年まで勤め上げ、退職金は約2,000万円。年金は夫婦合計で月21万円でした。

 

都内の自宅マンションを売却し、地方の海辺の町に平屋住宅を購入。移住は長年の夢でした。

 

「朝起きて海が見える生活って憧れだったんです」

 

娘のC美さん(仮名・38歳)は当時を振り返ります。

 

「両親は本当に嬉しそうでした。第二の人生って感じで」

 

移住直後、夫婦の生活は穏やかでした。散歩コースは海岸線。地元の直売所で野菜を買い、夕方は縁側で海を眺める。都会では得られなかった静けさがありました。

 

生活費も抑えられました。住宅ローンはなく、固定資産税も都市部より低額。年金収入の範囲で暮らせていました。

 

「お金の心配もなくて、理想の老後でした」

 

A彦さんはそう語っていました。

 

移住から半年後、C美さんが訪ねると、違和感があったといいます。庭の草が伸びたまま。家の中も以前より雑然としていました。

 

「お父さん、最近散歩行ってるの?」

 

そう聞くと、A彦さんは笑って答えました。

 

「ちょっと足が痛くてね」

 

実際には外出頻度が減っていました。坂道の多い立地で、買い物や通院には車が必要でした。

 

B江さんも言います。

 

「スーパーが遠いのよ。車で20分くらい」

 

移住前は徒歩圏に店や病院がありました。地方では距離感が大きく変わっていたのです。

 

その後、A彦さんは膝の痛みで整形外科に通うようになります。しかし最寄りの総合病院は車で40分。公共交通は1日数本のバスのみでした。

 

「通院が負担でね」

 

受診間隔が空きがちになりました。

 

国土交通省の同調査でも、高齢期の住み替えで課題として多く挙げられるのが「医療・買い物の利便性」です。特に地方では自動車依存が高く、加齢とともに移動制約が大きくなります。

 

 \3月20日(金)-22日(日)限定配信/
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