4月後半、FRBがついに債務超過
4月後半、筆者がかれこれ1年半近く注目してきたことが起きました。米連邦準備制度理事会(FRB)の債務超過です(=資本の部・純資産がマイナス;negative equity)。
[図表1]は、米連邦準備制度理事会(FRB)が週次ベースで公表しているバランスシート項目のひとつ『その他の負債・資本』勘定を時系列で示したものです(→直近5月31日時点で、マイナス118億50百万ドル)。
念のために申し添えると、この図は筆者がなんらかの計算をして表示したものではなく、FRBが毎週公表しているものをそのままダウンロードして表示したものです。
債務超過のカギを握る「財務省への送金未払金/繰延資産」
詳細は後に譲りますが、かいつまんで説明すると、また[図表2]でも示すとおり、この『その他の負債・資本』勘定は、FRBの「資本金」と「剰余金」に、「財務省への送金未払金/繰延資産」を足したもので構成されます。
この図から「財務省への送金未払金/繰延資産」が、FRBの債務超過のカギを握ることがおわかりいただけると思います。
「財務省への送金未払金/繰延資産」は、「各連銀が利益を上げている平常時」においては、前者の「財務省への送金未払金」(資本勘定・貸方でプラス)として計上されます。
FRBのポートフォリオは昨年7~9月期に赤字…それ以降、損失が累積
他方で、米国債や住宅ローン担保証券(MBS)などで構成されるFRBの金融政策のためのポートフォリオ「連邦準備制度公開市場勘定」(SOMA)は昨年7~9月期に赤字になり、その後、昨年9月にほとんどの地区連銀は財務省への剰余金の送金を停止しました(Federal Reserve Bank of New York (2023))。
この赤字は、負債サイドの市中銀行準備預金とリバース・レポに支払う利息(およびその他の業務コスト)が、資産サイドの保有債券や貸出から受け取る利息(およびその他の利益)を上回っていることから生じています。
なお、QT・量的引き締めに関連して、FRBは、たとえば昨年末時点で、8.4兆ドルの保有債券(アモチ後)に対して1兆ドルを超える含み損を抱えていましたが、現時点では、これらを売却せずに償還に任せているために、売却損は生じていません(→たとえば、イングランド銀行はアウトライトでの保有国債売却を進めており、売却損が生じている模様です)。
FRBの会計原則により、FRBや各連銀が赤字になって送金不能になる場合には、「財務省への送金未払金/繰延資産」は、「繰延資産」(資産勘定・借方でプラス)として計上されます。この繰延資産は、過去の費用・損失の合計にほかならず、債務超過(アンバラ)になったあとの「バランスシートをバランスさせるための勘定」(balancing item)です。
今年4月後半以降、この「繰延資産(累積損失)」が「資本金」と「剰余金」の合計金額を上回っており、FRBの「資本の部」言い換えると「純資産」は事実上マイナス(negative equity)になっています。