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FRBの債務超過は「問題なし」なワケ

実は世界各国で債務超過が起きている

驚かれたかもしれません。しかし、債務超過に陥っているのはFRBだけでなく、現在すでに、オーストラリア準備銀行も債務超過に陥っています(Bullock (2022);おもに保有債券の評価損による)。

 

また、過去にも、チリ、チェコ、イスラエル、メキシコの中央銀行のほか、先進国では、ドイツ連銀が1977~1979年に債務超過に陥っています(Archer and Moser-Boehm (2013), Bell et al (2023), Ueda (2003), Bundesbank (1976, 1977, 1978, 1979, 1980);おもに外貨準備の評価損による)。

 

これらの中央銀行は数年単位で債務超過が継続しましたが、金融政策を適切に実行することができています(Bell et al (2023))。

 

付け加えておくと、現在すでに、イングランド銀行(資産買い入れファシリティ;債券売却損と準備預金利払いの増加)や欧州中央銀行(ECB;おもに保有債券の評価損と準備預金利払いの増加)、ドイツ連銀(同)、スウェーデン中銀(同)なども赤字です。

中央銀行が赤字・債務超過に陥る「5つの要因」

また、中央銀行が赤字や債務超過に陥るかどうかに作用する要因として、もちろん、

 

 

1.どのような資産をどの程度の規模で増やすか(→市場リスクの保有量;為替介入の結果としての外貨準備の増加や、QE・量的金融緩和の結果としての保有債券の増加)

2.金融市場の変動の大きさ(→為替レートや金利)、

3.市中銀行準備預金への付利とインフレ率の大きさ、政策金利対応

 

なども大きく影響しますが、このほかにも、

 

4.採用している会計基準や、

5.中央銀行の利益や剰余金の分配ルール

 

も少なからぬ影響を与えます。

 

たとえば、上記4の「会計基準」については、オーストラリア準備銀行やECBは、保有債券を時価評価して評価損(費用)として認識します。他方で、FRBは(他行よりも巨額の含み損を抱えているものの)、損益計算書には反映せず、簿価金額と償還額面との差額を期間案分して損益認識します(→アモチ認識)。

 

当然、前者のほうが、損益は振れやすく、赤字に陥りやすくなります。

 

また、上記5の「利益や剰余金の分配ルール」については、財政支援のために財務省への送金や株主への配当を増やし、内部留保(剰余金)を限定して資本(≒いざというときのバッファー)を低めに留めれば、保有資産価格の変動や(準備預金への付利がある場合には)政策金利しだいで、債務超過に陥りやすくなります。

 

FRBの場合には、総資産がリーマンショック前(2007年12月末時点)の約0.9兆ドルから、パンデミック後には最大9兆ドルにまで増加した一方で、現在の資本金と剰余金の合計水準は2007年12月末時点とほぼ同水準です。

 

剰余金の水準はこの間に成立したいくつかの財政支出法にともなう連邦準備法の修正によって引き下げられ、現在はわずか約67億ドルに留められています。

 

[図表4]FRBの総資産と資本
[図表4]FRBの総資産と資本

 

[図表5]FRBの自己資本比率(資本/総資産)
[図表5]FRBの自己資本比率(資本/総資産)

 

[図表6]FRBの負債勘定科目『その他の負債・資本』の内訳
[図表6]FRBの負債勘定科目『その他の負債・資本』の内訳

 

また、FRBは2008年以降、1兆ドルを超える送金を財務省に行った一方で、現在の純資産の金額(資本金+剰余金+繰延資産・累積損失)はマイナス118億50百万ドルですから、財務省への送金額を少なくし、剰余金を増やすことで資本を厚くしておいたなら、少なくとも現時点では債務超過には陥っていなかったことは明らかです。

 

[図表7]FRBから財務省への送金額
[図表7]FRBから財務省への送金額

 

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