「コストが下がる」は「正解であり不正解」
製造量を増やすとコストが下がる効果は「量産効果」と言われています。「スケールメリット」や「規模の経済性」という言葉で説明される経済効果も、基本的にこれと同じです。
先述のように、製造量を増やすと、確かにコストが下がるという事実はあります。しかし、何が下がるのかを正確に理解しておかないと少々危険です。確かに、単位コストは下がりますが、総コストは必ず増えるのです。
これは考えてみれば当たり前です。単位コストは固定費が薄まる分下がりますが、総額で見れば、固定費の総額が変わらない一方で、製造すればそれだけ部品などの変動費がかさみますから、総コストは増えるのです。
そして、もう一つ重要なことがあります。「単位当たりコスト」の「単位当たり」は、「販売量単位当たり」ではなく、「製造量単位当たり」だということです。
それが意味することは、コストが計算される時点では、売れるかどうかは全く考慮されていないということです。
ですから、とにかくたくさん作れば、計算上の単位コストは下がるのです。
作ったものが売れる見込みがあるならば、製造コストが下がった分、販売価格競争力も出せますから意味があります。
しかし、売れる見込みがないならば、やっていることは一生懸命に不良在庫の山を築くことです。売れなければ廃棄処分です。しかも、たくさん作れば総コストは増えます。
それは、製品という形に変えて、わざわざ多額の現金を捨てているのと同じです。
筆者が、ある一部上場の製造業のコンサルティングの仕事をしたときのことです。
その工場では、ある時期、操業度に余裕があり時間的にも余裕があったので、ボーっとしているよりはいいだろうということで、みんなが一生懸命になって製品を作り置きしていました。
その結果、工場には製品在庫の山です。
それを見た私は少々心配になって工場長に聞きました。
「こんなに作っちゃって売れるんですか?」
すると、工場長はこう言ったのです。
「そんなことは知らないよ。売るのは営業の仕事だからな」
こういうことが、一部上場企業でも普通に起こるのです。
このようなことが普通に起こるのは、「ボーっとしているより一生懸命働く方がいいことだ」というのがみんなの価値観だからです。