外注したらコストは下がるか?
「外注したらコストは下がるか」という問題について、考えてみましょう。
A社は複数の製品を自社工場で製造し、販売しています。
その中の一つ、製品Xの製造原価は1個当たり100円です。
コスト削減の観点から、製品Xの製造を全面的に外注することを検討しており、外注先候補企業のB社に打診したところ、1個当たり70円で請け負うと言ってきました。
外注する場合、A社は完成品Xを仕入れて、自社の製品として販売することになります。
【演習問題1】
A社はB社に製品Xの製造を外注すべきでしょうか?あなたなら何と言いますか?
自社で製造している場合の製造原価が1個100円のものを、外注したら70円で作ってくれるならば、1個当たり30円もコストが下がります。これなら外注した方がいいに決まっています!
……と、考えそうですが、果たしてそうでしょうか?
ここでの正解は、「これだけでは分からない」です。
製造原価とは、原材料費や人件費、その他さまざまな費用が集計されたものです。その内訳が分からなければ、外注によって「なくなる費用」と「なくならない費用」が判断できません。
正しい意思決定のためには「変化する部分としない部分を見極める」ということが必要です。また、その前提として「要素に分ける」ということをしなければなりません。それができていないということです。
実務においては、「1個当たりの製造原価は100円」と言われると、とにかくこの数字が独り歩きします。そして、100円と70円を比較して、70円の方が安いからコストが下がると考えてしまいます。
製造業の製造部門の人でさえ、そのように考える人がたくさんいます。
ここでは、「これだけでは分からないので、製造原価の内訳を教えてくれ」と言うのが正解です。
【演習問題2】
製造原価の内訳を聞いたところ、[図表1]のようになっていることが分かりました。
直接材料費は製品Xの原材料費、直接労務費は製品Xの製造に直接携わる正社員の人件費です。製造間接費は、工場の減価償却費や火災保険料など、工場全体で発生する費用を製造時間に基づいて配賦したものです。
製造間接費は工場全体でほぼ固定的に発生していますので、製品Xという一つの製品を外注しても、その総額はほとんど変わりません。
内訳が分かったところで、さて、A社はB社に外注すべきでしょうか?
ここで比較するのは、「内製する場合」と「外注する場合」です。問題は、「外注した場合になくせる費用はどれか」ということです。
よくある答えは次のようなものです。
【よくある答え】
「製造間接費は製品Xを外注しても総額がほとんど変わらない。
一方、直接材料費60円と直接労務費30円は製品Xの製造に直接発生しているということだろうから、製品Xの内製をやめればこの2つの費用はなくせる。
すなわち、1個当たり60円+30円=90円が削減できる。したがって、1個70円で外注することによってコストが削減できる」
果たしてそうでしょうか?