中国は本当に脅威なのか?
一方、軍事的脅威は、一般的に国家の主権、領土の一体性及び独立を侵害しようとする外国の「意図」と「能力」によって測られる。
もし、ある国が他国を侵略する悪意ある意図を持っていても、その能力(軍事力)が伴っていなければ必ずしも「脅威」とは言い切れない。他方、ある国が軍事大国といわれる能力があっても、侵略する意図がなければ、同じく「脅威」とは見なされない。
このように、脅威の概念は、「意図」と「能力」の相乗積によって測られ、その二つが結びついた時に初めて脅威の顕在化として明確に認識されるものである。
では、中国は脅威か? 中国は言うまでもなく、日本にとっても、また台湾にとっても明らかな脅威である。しかし、その脅威が直ちに侵略の形で現実化するかどうかについては、冷静かつ慎重な判断が求められる。
なぜならば、中国は、尖閣諸島と台湾を自国の領土であると一方的に主張し、それを奪取し統一する意図を繰り返し宣明すると同時に、猛烈な勢いで軍事力を強化しているが、果たして真にその能力(実力)を備えているか否かは依然不透明・不確実であるからだ。
能力には、ハードウェアとソフトウェアの両面がある。兵器や装備に代表されるハードウェアは、比較的計測し易いが、それとて、軍事大国・核大国のロシア軍がウクライナ戦争において「世界が思っていたような強力な軍隊ではなかった」と酷評されているように、その正確な判断は難しい。
戦略(strategy)や作戦術(operationalart)・戦術(tactics)、教育訓練と部隊の練度、統合作戦、兵站(後方支援)、団結・規律・士気、将校や兵士の質などのソフトウェアに係わる能力の判断はさらに困難を極めるのは間違いない。
ましてや、中国軍が尖閣諸島を焦点とする南西地域や台湾に侵攻するには、過去に経験したことのない東シナ海や台湾海峡、南シナ海を越えた着上陸(水陸両用)作戦の遂行に依拠しなければならないからだ。
他方、侵略に発展するか否かは、彼我の相対的な力関係によっても左右される。と言うのも、侵略の脅威を察知した側が、軍事力や同盟戦略などの軍事・外交的対応を強化した結果、侵略する側が軍事的冒険に伴うコストがその利益を上回ると判断した場合、侵略を思い止まらせる戦争抑止機能が働く可能性があるからだ。
そのための日本の防衛力強化であり、日米同盟を基軸としたクアッド(Quad)や周辺国、友好国との協力連携の促進である。