(※画像はイメージです/PIXTA)

「台湾有事は日本有事」の危機が叫ばれる中、中国軍の本当の実力を解明することは喫緊の課題であり、中国の各種工作やマスコミなどの極端な論調に惑わされない冷静な判断が必要である、と元・陸上自衛隊幹部学校長、陸将の樋口譲次氏は言います。日本が直面する危機にどう備えるべきか──。本連載は、樋口譲次氏の著書『中国軍、その本当の実力は』(国書刊行会)から一部抜粋・編集してお届けします。

中国軍の“本当の実力”

直面する「台湾有事は日本有事」の危機が叫ばれる中、中国軍の本当の実力を解明することは喫緊の課題であり、中国の各種工作や一部マスコミなどの極端な論調に惑わされない冷静かつ慎重な判断が必要である。

 

中国は、共産党一党独裁による密室政治や曖昧な意思決定、厳重な言論・報道の統制、信頼性を欠く公式統計・資料(数値、データ)などに見られるように、徹底した秘密主義を貫く国であり、また権謀術数の限りを尽くしてせめぎ合う国でもある。

 

したがって、その実情(実体や実力)は、いつもベールに包まれて不透明かつ不可解である。加えて、中国が公表する情報には、色々な意図や思惑が秘められており、そのことを承知していたとしても、同じ事を何度も繰り返されるうちに警戒心が薄れ、いつの間にか真に受けて仕舞いがちになるが、それが又中国の狙いでもある。

 

このようなやり方は、中国が『孫子』の忠実な実践者であることと無関係ではない。

 

『孫子』は、冒頭の第1章「計篇」3項で「兵は詭道なり」と述べている。戦争とは、敵をだます行為であるとし、そのため、いつも敵に偽りの状態を示すことが肝要と説く。敵に対し常に偽りの情報を与えて自軍の実態を隠蔽し続け、虚偽の姿のみを示して敵の判断を誤らせ、自軍の狙う方向に敵を誘致導入するよう主張しているのである。

 

さらに『孫子』は、第3章「謀攻篇」9項で「戦わずして人の兵を屈する」、すなわち「戦わずして勝つ」ことが最善の方策であると断じている。

 

その現代的実践の手段が、中国が「三戦」として掲げる「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」であり、フェイク(虚偽情報)やナラティヴ(作り話・フィクション)、プロパガンダ(政治宣伝)を駆使した情報戦や認知戦、サイバー戦などである。

 

中国の三戦は、いわゆる「謀略戦」と同義であり、平・戦両時にわたって展開されるが、特に平時の戦いにおける主要手段として重視される。また、三戦は、「間諜(スパイ活動)」や前掲の「詭道」などと共に併用され、政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させて包括的に運用される。

 

その狙いは、相手国の意図や能力を測り、油断を誘って戦備を弱め、あるいは威嚇して戦意を挫くとともに、相手国の同盟関係(例えば、日米同盟)を機能不全または解体し、戦うことなく相手を屈服させることにある。

 

このように、中国は、不透明な軍事力を背景に、非軍事的手段によって相手を「強要(compellence)」し戦争の政治目的を達成しようとしている。その戦略的アプローチは、日米欧のそれとは明らかに異なり、その実情の正確な把握を複雑困難にしている。

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中国軍、その本当の実力は

中国軍、その本当の実力は

樋口 譲次

国書刊行会

徹底した秘密主義と権謀術数を常套手段とする中国の政治・軍事の実情を知ることは、至難の業である。 「台湾有事は日本有事」の危機が叫ばれる中、中国軍の本当の実力を解明することは喫緊の課題であり、中国の各種工作やマス…

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