中国の軍事的脅威に対する台湾の分析評価
台湾は、2021年3月に2009年以降4回目となる「4年ごとの国防総検討(QDR)」を公表した。同文書は、今後4年間の国防戦略及び戦力整備の方針を提示し、国防の強化に資することを目的とする報告書である。
また、2021年11月には、蔡英文政権下では3回目となる、過去2年間の国防政策の取組を国民に示す国防報告書(NDR)が公表された。
QDRでは、中国の軍事脅威を、台湾海峡周辺海域の封鎖や外国軍に対する接近阻止・領域拒否 (A2/AD)の能力を保持しつつ、台湾侵攻を想定した着上陸訓練やグレーゾーン戦略の実施などによって作戦能力を強化していると分析している。
NDRでは、中国のグレーゾーン脅威の項目が新たに設けられ、QDRに引き続き、中国のグレーゾーン戦略に対する台湾の強い警戒心が示されている。
中国の「戦わずして台湾を奪取する」手段
NDRは、中国のグレーゾーン戦略を「戦わずして台湾を奪取する」手段であると認識し、具体的には、情報収集やインフラ・システムへの攻撃などを狙ったサイバー攻撃、SNSなどを通じた 「三戦」の展開や偽情報の散布などによって一般市民の心理を操作・かく乱し、台湾社会の混乱を生み出そうとする「認知戦」などの例を挙げている。
こうした中国の脅威に対し台湾は、ビッグデータ解析などの新技術を活用し海軍と海巡署 (沿岸警備隊)との連携などによってこれに対処するとしている。
また、非対称戦、すなわち巨大な捕食者を前に大量の小さなトゲで身を守るヤマアラシのように、「巨大な侵攻軍に対し全土にくまなく配備した分散型の小型兵器によって中国軍に深刻な痛み(打撃)を与え、占領を許さない」(李喜明・元台湾軍参謀総長)という「ヤマアラシ戦略」のための戦力の拡充、統合訓練の強化、サイバー 作戦能力の向上、中国の認知戦に対するリテラシー教育の強化、「全民防衛動員署」の設立による動員体制の強化などに取組んでいる。
台湾軍による事態の想定例
他方、中国の軍事脅威についてQDRでは、中国は台湾に対する武力行使を放棄しない意思を示し続けており、航空・海上封鎖、限定的な武力行使、航空・ミサイル作戦、台湾への侵攻といった軍事行動を発動する可能性があり、その際米国の潜在的な介入の抑止または遅延を企画すると指摘している。
中国の台湾侵攻プロセスに関する台湾側の分析によれば、中国の軍事侵攻に関する見積りは以下の通りである。
初期(第一)段階において、演習の名目で軍を中国沿岸に集結させるとともに、「認知戦」を行使して台湾民衆のパニックを引き起こした後、海軍艦艇を西太平洋に集結させて外国軍の介入を阻止する。
第二段階では、「演習から戦争への転換」という戦略のもとで、ロケット軍及び空軍による弾道ミサイル及び巡航ミサイルが発射され、台湾の重要軍事施設を攻撃すると同時に、戦略支援部隊が台湾軍の重要システムなどへのサイバー攻撃を実行する。
第三段階では、海上・航空優勢を獲得した後、強襲揚陸艦や輸送ヘリなどによる着上陸作戦を実施し、外国軍が介入する前に台湾制圧を達成する、と見積っている。
これは、あくまで台湾軍による見積りの一例であって、事態がこの通りに展開するかどうかは不明である。が、そのうえで、台湾は、いくつかの防衛戦略をもって中国に対処するとしている。